Special report「サッポロ」のストーリーを伝える  

クーパーズのブランドアンバサダー、霜真一郎さん

オーストラリアの地場ビールメーカーの最大手は南オーストラリア州アデレードを拠点とするクーパーズだ。市場全体でもアサヒとキリン傘下のライオンに次ぐ第3位のシェアを持つ。サッポロビールの委託製造販売権を持つ同社には、ブランドアンバサダーなる職種がある。日豪の両ブランドをつなぐその職種に就く霜真一郎さんに、現場のマーケティングについて話を聞いた。【湖城修一】

サッポロ・ブランドのタグライン(コンセプト)を示す霜さん

日本でもビール業界のキャリアを持つ霜さんがクーパーズに入社したのは9年前。クーパーズがサッポロビールのオセアニアにおける委託製造販売権を取得した1年半後だ。

霜さんの入社の経緯には、クーパーズとサッポロとの契約が関わっている。クーパーズがサッポロから受託する前、サッポロのビールは日系のディストリビューターが日本から輸入し販売していた。2011年の受託を機に国内配送が大きく様変わりし、流通容器がそれまでの20リットル樽から50リットル樽に切り替えられた。この影響は大きく、主要販売先の日本食レストランにとって50リットル樽は大きすぎたことで、多くの顧客が別メーカーに切り替わってしまったという。1年後、サッポロのビールの販売実績は予想を下回り、クーパーズは日系飲食店に太いチャネルを持つ日系ディストリビューターを間に入れることを決めた。ここで言葉の問題や文化の相違が浮き彫りになり、日豪のビジネスのギャップを埋める「ブランドアンバサダー」のポジションがサッポロ側の承認も得て創設され、日本で生ビール業界に長年携わってきた霜さんが就任したという経緯だ。

■匠につながる製造をアピール

霜さんは「ブランドアンバサダーと言えば、アパレルブランドのイメージ女優のように思われがち」と苦笑する。実際には、日系ディストリビューターを担当する「キーアカウントマネジャー」のような業務がメーンという。ディストリビューターから連絡を受け、飲食店に対しサッポロ・ブランドをアピールすることが主な仕事だ。

昨年10月にオーストラリアで販売が始まった「ヱビスビール」のアピールについて霜さんは、「顧客を囲い込むために、ブランドが持っている『ストーリー』を伝えることが重要」と語る。「エビスは1890年当時の日本人が、世界で一番美味しい本物のビールを作るというパッション(情熱)をもって作ったビールで、そのパッションは今に受け継いでいる」とのメッセージが重要という。その上で「オーストラリア人が一般的に日本人に対して持つ『匠につながる丁寧で繊細な製造過程』を経たビール、というアピール」を行う。

オーストラリアでは、サッポロのほかアサヒ、キリン、コロナやハイネケンなど輸入ビールは、ローカルビールより高価格で「プレミアム・ビール」というカテゴリーを形成する。クーパーズはエビスを「スーパー・プレミアム」と呼び、「プレミアム・ビール」の愛飲者をさらなる高みに引き上げることを目指している。

■アサヒとは別の方向に

オーストラリアのビール業界では、クラフトビールに対する人気が上昇中だ。霜さんは、醸造者の思いや個性が消費者に伝わり、蘊蓄をたれることを楽しむ風潮が背景にあると分析する。そうした中、サッポロには日本最古のビールブランドとして、明治初期から続く長い伝統に紐付くストーリーや消費者に伝えたい作り手の思いが多数あるという。

クーパーズがオーストラリアにおけるサッポロの展開に際して強くアピールするのは「日本発のブランド」という点だ。霜さんは「アサヒビールが日系で最初に進出し、今ではローカルブランドに遜色ない程に浸透している。クーパーズはサッポロをアサヒとは別の方向に展開しようと、サッポロの歴史や想いに共感し、強く推す方針をとった」と説明する。

そのストーリーを消費者に伝える手段としてクーパーズはマンガを用いる。「なぜなら、オーストラリアの若者層が受け入れる日本の文化にはアニメやコスプレの実績が蓄積し、日本のマンガもその延長線上にある」と霜さんは言う。

創業130年以上に及ぶクーパーズも、「フォーエバー・オリジナル(永遠にオリジナル)」を名乗り、伝統を重んじる。そのクーパーズとサッポロが提携し販売する「サッポロ・プレミアム・ビール」の売上高は、昨年2桁増を記録した。両社の提携が好調な点について霜さんは、伝統を重んじる両者の思いや企業哲学がかみ合った結果だと考えている。

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