新・豪州Wagyuと歩む 第13回 日本の技術を学ぶ

■海外に広がる日本酒

シドニーの日本食レストランで、岩手県二戸市の酒造会社「南部美人」の方が、日本酒の試飲をしておられました。蔵元の5代目社長が直接、海外市場を開拓する時代になったのだと感心しました。

社長にお話を伺うと、米国やロシアなどでも販売されているそうで、特に「大吟醸10年古酒」は、ラスベガス限定品で、1本2,000ドルとか。ロシアでは、日本の米を使った塩むすびと相性が良いと評判で、日本食と日本酒のコラボレーションをアピールされたそうです。今では、シドニーのレストランでよく銘柄酒を見かけます。ソムリエの方が料理と合わせた日本酒の紹介もされているようです。今後もますます日本の酒造会社が売り込みに来るだろうと、レストランのオーナーもおっしゃっていました。

南部美人の蔵には米国から技術者が来て日本酒造りを学んでいるそうです。日本酒の仕込みといえば、各酒造会社で麹(こうじ)や醪(もろみ)を守りながら各蔵で個性を出すものだと思います。将来、米国にも南部美人の麹が渡り、米国産の酒米で日本酒ができる日がやってくるのでしょう。日本酒造りには酒米、麹、水が欠かせないと聞きます。米国の水でも、日本製の純水器を使えば問題ないのだと、社長はおっしゃっていました。

感心したのは、これから日本酒を輸出していこうという会社の社長が、米国の技術者に惜しげもなく企業秘密を伝授し、日本酒市場を広めていこうと考えていることでした。「日本の技術」と「海外の資源」とのコラボレーションでさらなる市場拡大を図り、本物の商品を作り出す意欲に感銘を受けました。

■和牛とWAGYU

私自身、日本の農家での和牛肥育経験はありませんが、今の仕事をするようになってから日本のさまざまな農家の方と知り合いになり、生産技術のご指導をいただいています。そこには、「海外で和牛肥育をしている日本人」という珍しさもあるのでしょうが、日本の技術を理解でき、品質の高いものを作れるという期待もあるのだと思います。和牛は、血統、飼料配合、飼養管理がそろって初めて、品質の高い和牛肉の生産ができます。

オーストラリアの「WAGYU」が世界中で販売されている現状と、日本の和牛がこれから輸出されていく将来を考えると、どちらが本家かという観点で外国産と国産を切り離して考えるのではなく、外国産も含めて本物の和牛の価値を世界的に高めていくことが、将来の和牛マーケットを広げることにつながるような気がします。

質の悪いWAGYUが出回ることで和牛はこんなものかと世界で評判が落ちるよりも、オーストラリアの生産者が日本の生産技術を見習って質の高いものを作る、そして日本の生産者も海外の豊富な資源を利用して生産量を増やすという組み合わせができてくれば、グローバルな和牛市場が形成され、その結果技術改良や、新たな遺伝改良も進むのではないかと思うのは私だけでしょうか。

 

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投稿者プロフィール

鈴木 崇雄
シドニー近郊のブルーマウンテンにある和牛牧場「 ベルツリー・オーストラリア」代表。日本人が営む唯一の和牛牧場として、オーストラリアで注目を集めている。