新・豪州Wagyuと歩む 第11回 和牛の能力

■牛の能力

牛を飼育している農家にとって、自分の飼っている牛の能力を知りたいというのは究極の欲求だと思います。能力のある牛を飼いたい、成績の高い牛を飼いたいと思うのは世界中の肉牛農家共通の目標だと思います。どうやったらその牛の能力がわかるのでしょうか? 日本では、優れた農家の方は牛の体つき、毛づや、角の色などからその能力を見極めていると言われています。

日本で和牛種雄牛のカタログなどを見ると、後代検定結果や育種価が載っています。これらの数値は、その種雄牛の子孫を同じ環境で飼育した場合の増体、枝肉成績を比較してその種雄牛を使うことによって得られる潜在的特長をあらわしたものです。自分の所有している雌牛の育種価もその牛の子孫の枝肉成績から得られるので、育種価の数値を参考にして将来の繁殖計画を立てる農家も多いと思われます。

■血統とは?

和牛の交配はこれまで、血統というものをとても重視して行われていたと思います。但馬系、気高系、藤良系などの血統は今や世界中で耳にすることができます。特に但馬系は、脂肪交雑能力が優れた系統として、世界で高い評価を受けています。以前、和牛の改良はそれぞれの都道府県で行われていたことが多く、その地域ごとの血統の違いが現在の和牛の血統的特徴になっている場合が多いと思います。凍結精液や凍結受精卵技術が発達した現在では、日本全国(いや、世界各国)で優秀な種雄牛や雌牛の血統を使用することができるのです。優れた血統というのはその特徴を有し世界中の和牛の改良に貢献していると言えます。

■遺伝子検査

現在、各国の研究機関が遺伝子(DNA)による牛の能力の解析を試みています。和牛の場合、その一番の関心は脂肪交雑能力だと思います。上記の育種価や血統的特徴が今までの枝肉成績の積み重ねによって得られたものに対し、DNAによる牛の潜在能力の判断はそのDNAの特徴と脂肪交雑の結果を紐付けることによって行われます。すなわち、血統や子孫の育種価が不明な牛でも、DNAのサンプルからその牛の能力を推察しようという技術です。ただし、DNAの特徴と一概に言ってもその配基は非常に複雑で、また、牛の体の脂肪交雑のメカニズムもはっきりと解明されていない中で、このDNAなら脂肪交雑が入るという結論には結びつかないのが現状なようです。

やはり、こればかりは長い間の経験の積み重ねと試行錯誤が一番の判断基準になるのでしょうか─。

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投稿者プロフィール

鈴木 崇雄
シドニー近郊のブルーマウンテンにある和牛牧場「 ベルツリー・オーストラリア」代表。日本人が営む唯一の和牛牧場として、オーストラリアで注目を集めている。