第63回 TAS州で新たな観光名所、ウイスキー醸造所!
本連載の「第29回 豪州の希望の星はタスマニア?脚光浴びるウイスキー」で取り上げたタスマニア(TAS)州のウイスキー醸造所「ハリヤーズ・ロード・ディスティラリー」。北西部の港湾都市バーニーにあるこの醸造所は、2006年にウイスキーの販売を開始。同地に設けた案内所は、約2万7,000人の町の人口を超える人を毎年集める、人気の観光スポットに成長した。シドニーでの取材から1年以上がたち、念願だった同醸造所を訪れた。
ハリヤーズに向かう坂道を車で進むと、まず見えるのはキリンのオーストラリア子会社、醸造・乳製品大手ライオンの施設。続いてTAS州の乳業会社ベタミルク。その隣にハリヤーズがある。実はハリヤーズ、このベタミルクの完全子会社で、酪農界が規制緩和で揺れた1990年代に、「TAS州のストーリーを伝える食品を作ろう」と始まった。
当初はワインやビールなどの製造も模索していたが、02年にウイスキーの最初の試作品を作った。地元で収獲される穀物ときれいな水、安定した気温など、ウイスキー作りにうってつけの土地であることが分かったからだ。乳業会社の傘下にあることで、地元の穀物に対する深い知識や、徹底した衛星品質管理など、酪農の経験がウイスキー作りに大きく貢献しているという。日本でも東亜商事(東京都千代田区)を通じて販売しており、昨年はTAS州の輸出賞を受賞した。中国からの問い合わせも増えている。
■ツアーは子どももOK
ハリヤーズに到着すると、ワイナリーを思わせるモダンな建物。大きなガラス窓からは青い空と緑の土地を一望できる。入り口にはティスティングカウンターがあり、併設のカフェではウイスキーを加えたアイスクリームなど、オリジナルメニューも楽しめる。訪れた日は予約で満席だった。
到着後10分後に始まるという醸造所ツアーに飛び込んだ。大人は有料だが、16歳以下は無料。お酒を造る場所に子どもも入れてしまうのがオーストラリアらしい。
醸造所に向かうドアを開けると、想像以上に強いウイスキーの香り。これだけで酔ってしまいそうだ。案内してくれたスタッフが、子どもの参加者に何度か「大丈夫?」と確認するほど。ハリヤーズの歴史やウイスキーの造り方の説明があり、大人は試飲をさせてくれる。ティスティングの仕方はワインと同じだが、ウイスキーを飲みなれない筆者は3種類で断念してしまった。
■味を決めるのは「樽」
ツアーの参加者がどよめいたのは、ウイスキーの味わいの7割が熟成する「樽」で決まるという説明。ウイスキーの宣伝では、水や穀物の質の良さに主に焦点が当てられる。もちろん水や穀物も大事な要素ではあるが、やや拍子抜けした格好だ。ハリヤーズでもワイン樽や古い樽などを使って試作品を常に作っており、新しい味の開発に余念がない。もちろん、評価の高い樽はそのぶん値も張る。
ウイスキーの香りを特徴付ける材料の泥炭(ピート)。TAS州にも良質のピートがあるのだが、公園や私有地にあり、環境規制などもあって手に入りにくいとか。ハリヤーズではスコットランドのピートを取り寄せて使っている。せっかくタスマニアブランドを表に出しているのに、地元のピートを使えないとは。少しくらいいいじゃないないかと思ってしまうが、強い環境保護意識はTAS州らしくもある。
TAS州にあるウイスキー醸造所の数は現在20カ所。このうちウイスキーを販売する段階に至っているのは9カ所で、地元業界は、今後5~6年で同州のウイスキーブームが本格化するとみている。
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