第64回 QLD産バニラが好評!ブロークンノーズバニラのフィオナさん

オリジナルブランドの抽出液、コーヒーや紅茶、砂糖など。バルサミコ酢も人気

オリジナルブランドの抽出液、コーヒーや紅茶、砂糖など。バルサミコ酢も人気

スパイスでサフランに次ぎ2番目に価格の高いバニラ。しかもオーガニックのバニラが、クイーンズランド(QLD)州北部の湿潤熱帯地域で栽培されている。生産したバニラを使った抽出液や、コーヒーなど地元産の食材と合わせた加工品も好評のブロークン・ノーズ・バニラ(Broken Nose Vanilla)を経営する、フィオナ・ジョージさんとマット・アランさんに話を聞いた。

ブロークン・ノーズ・バニラは、ケアンズから南に車で約1時間のミリウィニにある。農場の名前は、近くにある国立公園でトレッキングの名所でもあるブロークン・ノーズにちなんでおり、地元産であることを大事にしたいとの思いもこめられている。

環境管理やランドスケープデザインの専門家であるフィオナさんと、人類学の教授であるマットさんがQLD州でバニラ栽培を行うようになったのは、ニュージーランド(NZ)で10年間を過ごし、オーストラリアに戻ってくる際にシドニーではなく、地方に住もうと決めたことがきっかけだ。家族ででき、持続可能で、大きなインフラ投資を必要とせず、たとえハイリスクであってもその分リターンが高い仕事――。その条件に見合うものを探した結果、バニラの栽培に行き着いた。

フィオナさんによると、ブロークン・ノーズ周辺はバニラの栽培に非常に適しており、1800年代後半からバニラ栽培が断続的に行われていた。しかし、安価な労働力のあった1890年代とは違い、オーストラリアでのバニラ栽培は競合国と比べてコストが高く、その後主要産業には成長しなかった。「気候がいくら栽培に適していても、マーケットがなければ成り立たないということです」とフィオナさんは語る。

そのため、ブロークン・ノーズ・バニラは、バニラ成分が多い高品質品を生産し、高価格路線を追求する。バニラの成分が「濃い」ため、通常はバニラビーンズ1本が必要な量を、その4分の1でまかなえる。味の良さも有名シェフのお墨付きだ。フィオナさんは、「食品に使われるバニラはほんの少量で、消費者はそれが国産かどうか気にしません。味の良さで勝負する必要があります」との考えだ。

バニラビーンズは3本10豪ドル(1豪ドル=約87円)で販売するが、現在は需要に供給が追いつかない。自分たちの加工事業に使う分を確保する必要もある。

■サイクロンが形作った事業モデル

フィオナさん(左)と、バニラビーンズ を持つマットさん。後ろには植えられた バニラ

フィオナさん(左)と、バニラビーンズ
を持つマットさん。後ろには植えられた
バニラ

フィオナさんとマットさんが土地を購入したのが2006年3月。いきなり同じ月に、超大型サイクロン「ラリー」に見舞われた。当時住んでいた小屋を取り壊して友人宅に避難したが、農場はめちゃくちゃ。この経験から、時速300キロの暴風に耐えられないものは作らないことを決めた。マットさんは「サイクロンが農場の運営方法を大きく変えました」と語る。

飛ばされてしまうシェードハウスには投資せず、地面から1メートルまでの高さであれば暴風に耐えられることを発見し、農場に導入。その甲斐あって、11年の超大型サイクロン「ヤシ」を乗り切った。加工事業に着手したのはその後だ。

「サイクロンは恐れるものではなく管理の問題」と語るフィオナさん。マットさんも「同じことの繰り返しでは生き残れない」とし、サイクロンと共に生きるQLD州北部の農家は「しっかりした戦略が必要」との考えだ。

マットさんは、リスク分散の意味もあり、バニラ栽培で周辺農家の育成指導に取り組む。フィオナさんの希望は、今後5年間でバニラを納入してくれる農家が5~6軒増えること。それだけでも生産量が3~4倍に増やせ、供給不足の解消につながる。

■日本との深い関係

マットさんの研究分野はなんと日本。NZ出身のフィオナさんも日本で弟子入りし造園を学んだ。二人とも日本語が堪能で、20代のころから頻繁に日本を訪れている。長い付き合いの日本の友人とは、家族ぐるみで互いに行き来する間柄だ。

ブロークン・ノーズ・バニラは現在輸出をしていないが、日本やNZなどへの輸出も視野に入れる。バニラの風味をつけた緑茶など、たくさんのアイデアが浮かんでいるそうだ。

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