新・豪州Wagyuと歩む 第8回 海外で生産される和牛肉(その1)
■和牛は日本だけ?
今年に入り、オーストラリアと日本で「和牛」が頻繁に話題に上るようになりました。当牧場にも、取材や視察を含め10件以上の訪問がありました。
海外での和牛生産が珍しいからという訪問理由は最近少なくなっており、むしろオーストラリアの和牛生産が日本の和牛輸出にとってライバルとなっている事が理由だと思われます。
訪問者の大半から「環太平洋連携協定(TPP)協議に日本が参加する事で、お宅の事業に影響がありますか?」との質問を受けます。確かに、オーストラリアの和牛産業はその大半が輸出向けですし、オーストラリアにとって日本市場は牛肉輸出で大きなシェアを占めています。だからといってオーストラリア産和牛が日本市場を狙っているかというと、そうではないと思います。
日本には和牛の表示規制というルールがあります。それには、日本国内で和牛を販売するためには、日本国内で生産された黒毛和種の牛肉である証明(人工受精証明書)が必要とあります。これは、日本が和牛を知的財産として保護しようとしているからです。
日本特有の黒毛和種で、日本国内で生産されたものだけが和牛という表示を受けられるため、オーストラリアで生産された和牛は日本に輸出した場合、肉用専種という分類になります。従って、オーストラリアの和牛生産者は仮に黒毛和種100%の牛肉を作ったところで日本へ輸出するメリットはあまりないと言えるかもしれません。
■海外の和牛肉はどこへ?
私はさまざまな国で和牛の生産にかかわる機会に恵まれてきました。ここオーストラリアは和牛の生産と販売で、日本以外で世界一のシェアを誇ります。今後は東南アジア、中国、ヨーロッパ、中東などでも和牛の生産が盛んになってくると思われます。
それらの国で生産された和牛は、果たして日本の和牛生産者の脅威になり得るのでしょうか。どの国でも、和牛の品質の素晴らしさは知れ渡っています。世界で生産された和牛肉は、どの国の市場でも高級品として扱われ、富裕層向けに販売を拡大していく事と思います。
ただし、オーストラリアを除く諸外国の場合は、その和牛生産の大半は自国内での消費を念頭に置いたものが多いように感じます。これは、海外の和牛生産者の規模が比較的小さく、生産される和牛の品質にまだバラツキがあるためと考えます。諸外国で生産される和牛は、生産コストも比較的安く、販売価格も日本に比べるとリーズナブルになっているように見受けられます。
投稿者プロフィール
- シドニー近郊のブルーマウンテンにある和牛牧場「 ベルツリー・オーストラリア」代表。日本人が営む唯一の和牛牧場として、オーストラリアで注目を集めている。
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