新・豪州Wagyuと歩む 第4回 イタリアの和牛事情

■WEBサイトを通して

オーストラリアで和牛農場を経営し、牛肉生産を通して和牛の素晴らしさをオーストラリアの生産者や消費者に伝えていく傍ら、私はインターネットを通して和牛の歴史、飼養管理の技術、血統の特徴、本場日本からの和牛の情報などを提供しています。さまざまなウェブサイトがありますが、繁殖、育成、肥育の一貫生産をしている農場が少ないことと、日本の生産事情などの情報が一般的に海外では手に入りにくいことから、偏った内容のサイトが多いことも事実です。客観的に和牛のさまざまな情報を提供し、利益の出る産業として和牛を海外で定着させたいと言うのが狙いです。こうしたウェブサイトは、世界各国の和牛に興味のある方も閲覧してくれているようです。イタリア人のボレッティ氏が私の農場を訪問してくれたのも、ウェブサイトを見たことで、私の農場の生産システムに興味を持ってくれたのがきっかけでした。

■イタリアの和牛農場

ボレッティ氏は、イタリアのベネチア郊外に大きな穀物農場を所有しています。農場では穀物生産の傍らその穀物を利用して牛の肥育も行っています。同氏は数年前から和牛に興味を持ち、オーストラリアから受精卵を輸入して既に和牛生産を始めていました。

ボレッティ氏いわく、「和牛は欧州市場でとても高い評価を受けている。ただし、不安定な経済と、輸入和牛の品質が安定しないことが市場拡大を妨げている。自社牧場で高品質和牛生産が軌道にのった時に、市場を確保するため、イタリアの食肉販売店に和牛の良さを理解してもらいたい」。これを理由に私をイタリアに招き、和牛市場の視察をさせてくれました。

イタリアのみならず、欧州では広く牛肉が消費されています。ミラノで数件の精肉店を見せてもらいましたが、日本やオーストラリアで見る精肉店とはひと味ちがった佇(たたず)まいを見せていて、欧州の食肉文化の幅広さを感じました。薫製肉、熟成肉など高級品が数多く並ぶ店頭を見ると、和牛のような高級食材も十分受け入れられるのではないかと感じました。

■イタリアでの味比べ

訪問の際には、私の牧場の牛肉をぜひイタリアの精肉店の関係者に食べてもらいたいとボレッティ氏から懇願されていました。少量でしたが肉を持って訪れると、マネジャーが味見をしたいと言ってくださり、それならば店で一番の牛肉と味比べをしようと言う事になりました。自分が作った牛肉がミラノで熟成肉の高級品と味比べをする事になろうとは夢にも思いませんでした。

公平を期すために同じフライパンで同じ時間焼きました。焼き始めから、和牛肉は特有の融点の低い脂がにじみ出てくるのに対して、アンガスは変化なしでシェフも驚いていました。試食の段階で、皆口々にアンガスは焼き過ぎだと言っているのに気付き、もう一枚アンガスをレアめで焼き直してもらいましたが、結果はやはり和牛肉の方がジューシーで柔らかいと言う評価を頂きました。この店では、以前和牛を仕入れたことはあるがここまでの違いは無かったと言っていただきました。和牛肉の良さは、万国共通で通じるのだなぁと感じる一方で、和牛本来の良さを持たない商品が和牛として流通している現状も心配になりました。そういった商品の流通は和牛の本来の評価を落とし、今後の足かせにもなりかねないからです。

 

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投稿者プロフィール

鈴木 崇雄
シドニー近郊のブルーマウンテンにある和牛牧場「 ベルツリー・オーストラリア」代表。日本人が営む唯一の和牛牧場として、オーストラリアで注目を集めている。