第10回 「これからもWAGYUと歩む」

 ベルツリー・オーストラリア代表・鈴木崇雄

豪州に来てから17年、ここブルーマウンテンにて農場を始めてから、2年が過ぎました。当時はただ漠然 と海外へ行きたいという想いから、17年と言う年月を経て、こうして自分で農場を営むなどとは想像もつきませんでした。まして、自分がこの南半球にある島国で日本の和牛に携わるなどとは、考えもしませんでした。

これまで、豪州に来てから本当にさまざまな経験ができました。言葉もろくにしゃべれずに、 何も経験のないわたしたちがこうして豪州に根付いて暮らせているのも、いろいろな人の助けがあったからです。日本人であることが、プラスにも、マイナスに も働くということを身をもって経験できました。現地の牧場で仕事をしながら、必死にこちらの言語、風習を真似ようとしていたころもありました。見た目が日 本人と言うだけで、現場の中に入れないと言うこともありました。それらを克服しながら、日本人として最大限できることを模索していた時期もありました。そ して、今こうして現地にて農場をやりながら、やはり日本の和牛の仕事をできるのも日本人であったおかげだと思います。

こうして豪州に住み着いた日本 人ならば、おそらく多かれ少なかれ似たような経験をしていると思います。豪州の習慣になじめない部分と、それをうまく取り入れながらやはり日本人らしく生 活していきたい部分が重なって、どちらの国のものともいえないユニークな生活のリズムができ上がっていきます。特に生産の現場に近いわたしたちは、豪州の 農家が長年培ってきた技術に触れることも多く、日本の農業の技術とうまく融合させることの難しさも楽しさも実感しています。

これは、なんとなくこれ までの「WAGYU」の歩みにもつながるような気がします。日本からやってきた日本古来の家畜がここ豪州で1つの産業として知名度を広げ、世界中にその存 在を知らしめてきました。ただし、日本古来の血統、飼育方法だけでは豪州でその能力を十分に発揮できないのです。これから、さらに豪州の気候風土や飼育方 法と日本の血統の良いところがうまくかみ合わさった牛を作ることによって、初めて「WAGYU」と言う新しい品種として、今後ますますその存在価値を高め てゆくことができるのではないでしょうか。

日本の和牛はすばらしい能力を持った牛です。最高級の品質の牛肉を作ることにおいて、和牛の血統と日本の 飼養技術は世界唯一のものだと思います。私たちは、幸いにしてその能力を受け継いだ牛をここ豪州に持っています。これからは、豪州の中で独自の高品質牛肉 をより多くの人々に味わっていただけるよう努力していきたいと考えています。一農場の主人としてできることは限られてはいますが、これからも 「WAGYU」と共に歩んでゆければよいと考えております。

今まで、長い間ご愛読いただきまして、誠にありがとうございました。今回をもって、この 連載をひとまず終了とさせていただきます。

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投稿者プロフィール

鈴木 崇雄
シドニー近郊のブルーマウンテンにある和牛牧場「 ベルツリー・オーストラリア」代表。日本人が営む唯一の和牛牧場として、オーストラリアで注目を集めている。