こだわり業界人探訪【第2回】コロナに打ち勝つ機能性にんにく

日豪の農業界を盛り上げる 日豪アグリ、今林丈二さん

本誌連載「オーストラリアで始める農業ビジネス」の著者、今林丈二さんが免疫力を増強させる機能性野菜を生産するオーストラリア企業Nichi Gou Agri(日豪アグリ)を設立し、植物工場で栽培する「GENKI Garlic(元気ガーリック)™」を開発した。同氏は「GENKI Garlic™」の事業を皮切りに、新型コロナウイルスの流行による人手不足などの影響で疲弊してしまったオーストラリアと日本の農業界を盛り上げたいと意気込む。【岩田直子】

「日豪の農業界を盛り上げたい」と語る今林さん

「GENKI Garlic™」は、にんにくの新芽(スプラウト)で、通常のにんにくよりも栄養価が高い。新型コロナのパンデミック(世界的大流行)の最中で必要不可欠な免疫力向上に貢献し、においも残りにくい。

にんにくの新芽はつい最近までは「有害で食べてはいけない」というイメージがあったという。今林さんによると、この点に疑問を持った諸外国の大学が研究を行った結果、高い栄養価が判明。同氏は「スプラウトはこれから成長するというエネルギーが最も詰まっている。通常のにんにくと比べても、鉄分やカルシウム、リン、GABAなどの栄養が5~10倍ほど高い」と説明する。

今回開発した「GENKI Garlic™」1本には、生にんにく1房分の鉄分が含まれている。また、においも残らず、特に女性にとっては嬉しい商品だ。1~2本の少量を食べるだけでも免疫力はアップしウイルスから身を守る効果も高まるとされ、さらに、アンチエイジングや美肌など効果は大きいという。「GENKI Garlic™」は皮もなく、根も実も根っこも丸ごと食べられ、捨てるところがないのも特徴。天ぷら、素揚げ、アヒージョ、ピクルスなどにすると、とても美味しいと試食したメルボルンのシェフの間でも好評だ。

■完全閉鎖型植物工場で、リスクを最小限に

「GENKI Garlic™」は、異常気象による天候不順や病害虫などの外的環境に影響されない「強い農業」のビジネスモデルに基づき、海上コンテナを用いた完全閉鎖型植物工場で栽培される。

このビジネスモデルは、2020年にオンラインで開催された埼玉県深谷市が主催する農業ビジネスコンテスト「ディープバレー・アグリテックアワード2020」で、特別賞(協賛企業賞)を受賞した。

このモデルのポイントは「リスクを最小限に抑える」こと。通常、植物工場の建設には数千万~数億円かかると言われる中、今林さんの考案した低コスト栽培システムの初期費用は200万円以下。コンテナ1個で2万5,000株程度の栽培が可能で、栽培期間は2週間以内。栽培期間が短いため、病害虫の懸念も少なく、作業の平準化が容易になり最少の労働要員での運営が可能だ。

「新規参入にはリスクがあるが、初期費用を抑え、多くの生産者に普及する仕組みでフランチャイズ展開を考えている」と今林さん。

■ブランドを守る

一方、「ブランドを守る」という点ではまだまだ課題の残る農業界。商標や特許の取得が不完全で、日本の技術を基に開発された野菜や果物は守り切れていない現状がある。例えば、今や中国でのシャインマスカットの栽培面積は日本での栽培面積よりも大きく、日本品種のイチゴも韓国で栽培され、損失は数百億~数千億円に上るとみられている。今林さんは「今まで農業は守るということがあまり意識されていなかった」と語る。

この経緯から、今回のスプラウトにんにくは「ブランドを守る」点を重視。商標登録を申請し、ブランドを守りながら展開させていく計画だ。

外部環境の影響を受けないGENKI GARLIC™のコンテナタイプの完全閉鎖型植物工場

■環境保全型でCO2を削減する農業ビジネスの実証

また、今やビジネスにおいて環境への考慮は必須。今林さんは「フードマイレージ(食料の輸送距離)を減らすことができる都会で野菜の栽培ができれば究極の地産地消になり、二酸化炭素(CO2)削減に大きく貢献できる」と言う。食料自給率(カロリーベース)220%超のオーストラリアは、国土面積が日本の約20倍と広大なため、国内消費用の農産物でもフードマイレージの増加が年々課題となっている。一方、食料自給率が同40%以下の日本では、国内消費用の農産物の多くを輸入に頼っているため、長い国際的フードマイレージが問題となる。同氏は、そんな両国のCO2削減を実証する環境保全型農業を実証したいと意気込んでいる。

■コロナの障壁

当初「GENKI Garlic™」の開発は順調には進まなかった。受賞した時点では、新型コロナの感染拡大が収束に向かうとの予想もあり、埼玉県で植物工場事業を実証し、そのモデルをビクトリア(VIC)州に移転するという方向で進めていた。だが、収束の兆しは見えない。今林さんは「VIC州で先に実証栽培を行い事業を軌道に乗せ、後にそのモデルを埼玉県に持っていくという逆転の発想」で事業計画を再設計した。

新たなビジネスモデルのもと、栽培施設は昨年3月から開始したが、コロナ禍でコンテナ内の資材などの調達は困難を極めた。大手資材専門店やネットでも見つからない。台湾などから取り寄せても配送は遅れた。

またビクトリア州でのロックダウン(都市封鎖)は世界最長となった。行動制限が常につきまとい、マーケティングも隔離でプロモーションができず、事業進行の障壁となった。施設を稼働しても無駄になるため、栽培を止めるしかない時も何度もあった。何もできないまま時間だけが流れ、時には精神的に追い込まれたことも。起業を諦めて日本に帰ることも検討したという。

だが、オーストラリアと日本の農業界の再活性への思いを胸に、障壁を一つ一つ乗り越えてきた。

新型コロナに打ち勝つ免疫を付けるGENKI GARLIC™

■VIC州政府とR&Dでコラボ

農業コンサルタントの同氏は、VIC州政府機関アグリカルチャー・ビクトリア(Agriculture Victoria)とも長年にわたり連携する。同機関は「未来農業プロジェクト」として、植物工場技術を始めとする先端の農業技術開発に力を注いでおり、日豪アグリは植物工場の研究開発(R&D)分野で協業するという。

■ウィンウィンの関係を

現在、「GENKI Garlic™」はオーストラリア国内のディストリビューターを探す段階だ。「今までさまざまな事業に関わってきた中で、一方が損をして一方が得をする光景を見てきた」と今林さん。日本ブランドの展開を成功に導くためにも、まずはオーストラリアの市場でウィンウィンな関係を保ちながら事業展開を行いたいと考え、「それが持続可能性を高めることにつながる」とみている。

日本の技術を基にして開発した「GENKI Garlic™」の価値を理解し、販路の多い企業と協力しながら、「パンデミックで疲弊してしまったオーストラリア、そして近い将来には日本の農業界を自らのビジネスを通じて盛り上げていきたい」と同氏は語っている。

■「GENKI Garlic™」の価格などの問い合わせは

Nichi Gou Agri (日豪アグリ):NichiGouAgri@gmail.com

またはウェルス編集部まで。

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