新・豪州Wagyuと歩む 第7回 Wagyu、中国大陸へ(その3)

■和牛加工の指導

メルボルン在住で和牛専門販売をされている武村氏と7月、北京を訪問しました。目的は、自社牧場で生産した和牛の枝肉解体・分割と、レストランでの肉の切り方や調理の指導でした。

北京郊外の食肉加工場では、現地の職人と枝肉解体や分割をするにあたり、正肉歩留まりを上げる(不良発生率を低くする)こと、和牛特有の部位ごとの分割、レストラン向けの使いやすい小分けを指導しました。武村氏は長年牛肉業界に携わり、日本で和牛の食肉加工をされてきた専門家です。指導は、部位の名前や特徴から始まり、持参の日本製牛刀を使ってのナイフの持ち方や、体の使い方次第で肉の取れる歩留まりが変わる事などを熱心に指導されていました。

和牛は一般の牛肉と違い、各部位の商品価値が高く、部位の取り方によってスライス、焼き肉などの商品開発が可能になる事を説明しました。和牛肉の特徴を理解する事により、販売時にその分の利益を上げる事ができます。高品質の和牛は、細部までしっかりと脂が回ってきます。中国の一般の牛肉ならひき肉などの材料にしかならないような部位でも、高級食材としての価値を見いだせるのです。

■和牛料理の紹介

レストランでは、しゃぶしゃぶ、すき焼き、タタキ、ステーキ等を部位ごとに調理しました。限られたスペースで武村氏の包丁さばきが作り出すスライス肉にはゲストも驚かれていました。和牛の代表的料理であるすき焼きやしゃぶしゃぶも、包丁の入れ方一つで食感や肉の風味が変わる事を説明しました。中国ではやはりステーキよりもしゃぶしゃぶが人気でしたが、すき焼きが思いの外好評でした。和牛特有の脂がすき焼きの味に合って気に入られたようです。

■和牛文化を広める

和牛肉を商品化する技術は、日本の食肉業界で培われてきた文化です。和牛と言う高級牛肉を無駄のないよう使おうとする職人の技術は、生産者への敬意の表れであり、消費者にいかにおいしい肉を食べてもらうかというサービス精神の表れでもあると思います。

和牛を海外で飼いたがる生産者は大勢います。生体牛や受精卵の輸出で頭数も確実に増えていますが、和牛を育てる技術や商品化する技術、そして和牛を食べる文化を一緒に広めていこうとする動きはなかなかありません。和牛を世界に広めると言う事は、食肉加工や食文化をも広めていく事が大事だと考えます。

中国で生産した牛肉を販売する難しさは、品質や供給の安定、販売経路などさまざまです。特に中国では、国産品への不信感があります。和牛生物科技の和牛肉が北京で成功するには、まず品質の安定が不可欠です。商品が良ければ、自(おの)ずと販路は開けてくると信じます。和牛食肉文化も伝えていければ、自社農場の飼養管理がしっかりしているからこそ、将来が楽しみな事業だと言えます。

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投稿者プロフィール

鈴木 崇雄
シドニー近郊のブルーマウンテンにある和牛牧場「 ベルツリー・オーストラリア」代表。日本人が営む唯一の和牛牧場として、オーストラリアで注目を集めている。