新年度予算の豪農業への影響は? 燃料・肥料確保に大規模拠出

オーストラリアのチャルマーズ財務相が12日に発表した2026/27年度(新年度、26年7月-27年6月)連邦予算案は、中東情勢の緊迫化でコスト増が深刻化する中で、農業界にとって燃料・肥料供給の安定化が前面に打ち出された内容となった。家畜輸送業界や全国農業者連盟(NFF)などが歓迎している。一方で、病害虫対策や地方道路の整備、労働力の確保など、農業生産や物流を維持するために欠かせない分野への対応は不十分だとして、不満も噴出している。【ウェルス編集部】

目玉の1つとなった「燃料安全保障・強靱化策」は、148億豪ドル(1豪ドル=約113円)規模となった。「燃料・肥料安全保障ファシリティー」には75億豪ドル、「燃料安全保障備蓄」には32億豪ドルが拠出される。「緊急用燃料の約10億リットルの確保」や、ディーゼル燃料と航空燃料の備蓄を50日分へ引き上げる方針も示された。

また、バイオ燃料など低炭素液体燃料を支援する「クリーナー燃料プログラム」も関連施策に位置付けられ、総額11億豪ドルが拠出される。

国内での低炭素燃料生産を促し、新たな精製能力への投資を後押しする内容で、穀物業界団体グレイングロワーズは「燃料供給の安定性を強化する重要な一歩」と評価している。

政府はまた、尿素肥料について追加で25万トンを調達済みとしている。NFFは、こうした取り組みは、地域産業や農業など重要な利用者への供給リスクを抑えるとして歓迎した。

■497種の関税廃止へ

農産物輸出や研究開発にも一定の支援が盛り込まれた。政府は輸出拡大に今後4年間で2,300万豪ドル、国際貿易・基準関連活動の維持に4,500万豪ドルを拠出する。通関手続きを簡素化する「オーストラリアン・トラステッド・トレーダー」制度の拡大にも700万豪ドルを充てる。

新年度の初日である7月1日から、497種の「形骸化した関税」を廃止する方針も示された。アーモンドやブドウ、プルーン、乾燥リンゴ、食用海藻、精製大豆油・コーン油、マーガリンなどの輸入品が対象だ。これにより約230億豪ドル相当の貿易が効率化され、企業のコンプライアンス費用は年間で計1億5,700万豪ドル削減されるという。

オーストラリア・欧州連合(EU)間の自由貿易協定(FTA)を通じて手続きを簡素化し、輸出プログラムを拡大することも強化策の一環に位置付けられた。

研究開発では、穀物研究開発公社(GRDC)が新年度に3億1,500万豪ドルを投資する見通しも発表され、前年度の2億6,400万豪ドルから増額する。このうち、連邦政府拠出金が1億2,300万豪ドルで、雑草管理、自動化、作物遺伝学、低排出型農業システムなどが支援対象だ。

■病害虫対策への資金、大幅減へ

農業界が評価する燃料・肥料支援とは対照的に、バイオセキュリティー強化や地方の物流を支える道路整備計画は不十分だと不満が出ている。

「病害虫対策準備・対応プログラム」には新年度1億3,100万豪ドルが計上されたが、今後4年間で2,200万豪ドルまで減少する見通しだ。害虫や害獣などは国内の生産者に少なくとも53億豪ドルの損害を与えているとされており、外来種協議会は「ヒアリ根絶などのバイオセキュリティーへの対策は毎年削られるものではない。予算の中核に据えるべき」と訴えている。

また、家畜輸送業界は、燃料支援は大規模でも、農産物や家畜を運ぶ道路や橋、セールヤード(家畜売り場)へのアクセス改善が不十分だと指摘する。政府は、8億4,500万豪ドルの道路資金枠のうち7億3,000万豪ドルを地方の道路復興プログラムに配分したが、家畜輸送業界団体オーストラリアン・ライブストック&ルーラル・トランスポーターズ・アソシエーション(ALRTA)は、「地方の物流のボトルネックに焦点を当てた明確な計画は見えにくい」と批判した。

■労働力確保に懸念も

労働力の確保を巡っても、農業・外食業界から懸念が出ている。予算案ではワーキングホリデー制度について、同ビザ(査証)の発給数を縮小する方針などが示された。NFFは、青果部門が収穫期の季節労働力を同制度に大きく依存しているとし、労働者が減少して収穫能力が落ちれば生鮮品の供給や食品価格に影響すると反発している。

業界団体レストラン・ケータリング・オーストラリアは、ホスピタリティー業界が継続的に働きかけてきたにもかかわらず、予算案に同業界を対象とした労働力対策が盛り込まれなかったと指摘。新型コロナウイルス流行以降、業界を制約してきた慢性的な人手不足への対応が不十分だとしている。

税制改革を巡っても、農地や農業関連資産への影響を懸念する声がある。世代間格差解消などを目的に実施される税制改革は、1985年以前に購入された資産も対象に含まれ、農業界の資産の売却・承継時に税負担が重くなる恐れがあるとみられている。

■飲料業界支援、連邦政府と州で分かれる

飲料業界への支援は盛り込まれなかった。特に、世界的なワイン消費の減少で苦境にあるワイン業界は、追加支援がなかったことに失望している。さらに、地方ワイン事業者を支援してきた「ワイン・ツーリズム・アンド・セラードア助成プログラム」も段階的に廃止されることになり、年間1,000万豪ドル規模の支援が失われる。

一方、州レベルでは動きがある。ビクトリア州政府は26/27年度の州予算案で、地元飲料産業を支援する「ドリンク・ビクトリアン」プログラムに160万豪ドルを拠出すると発表した。同州初のクラフトビール・サイダー戦略を策定し、147社の独立系ビール・サイダー生産者を支援する。独立醸造家協会(IBA)は、地域経済やホップなど農業サプライチェーンへの貢献が認められたとして歓迎した。

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