それはそれ
シドニーでラーメン戦争が勃発して久しい。ある郊外の店は日本で著名な老舗製麺会社の麺とスープを使っているという。オーストラリアで唯一とのことで試さない訳にいかない。
店は明るく、開放感にあふれる。テーブルは清潔で店員の感じも良い。カウンターの隅には例の製麺会社の木箱が重ねて置かれ、誇らしげに存在感を放っている。早速店名を冠したラーメンを注文した。
あっという間にラーメンが届く。優雅な縮れ麺は心地よいモチモチ感で、同時にコシもしっかり。魅惑のスープと十分に絡む。具のモヤシも完璧に調和し、箸が止められない。
ふと、頬張る口中に違和感が。同時にドンブリをすくう箸にも固まりが当たる。麺がほぐれていないのだ。何本もの麺が一つにくっついている。なんというお粗末さ。あるまじき初歩的なエラー。老舗の名が泣く。自分で茹でた方がまし。マスターシェフなら即失格だ、とすぐに店を出た。
ただ、今では衝動的な行動を後悔している。あのスープは最後まで味わうべきだった。(尋助)
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