第14回 低脂肪の羊肉生産、CTスキャンがお助け!
日本では労働安全衛生法などにより、労働者は年に1回、会社の費用負担で健康診断を受けることができます。またオプションでの精密検査も比較的リーズナブルな価格で受診が可能なことから、頭部CTスキャンや腹部CTスキャンなどを受ける人も年々増えているようです。
ただこのCTスキャン、もともとは人間の体にできた腫瘍(しゅよう)を発見するために開発されたものですが、現在では人間だけが利用しているわけではないようです。英BBC放送(BBC)ニュースによると、2年ほど前から羊肉の品質を高める目的で、羊もCTスキャンによる検査を受けているというのです。
高額なスキャン費用羊のCTスキャン技術は、英エディンバラに位置するスコティッシュ・アグリカルチュラル・カレッジにより開発されました。同カレッジは持ち運び可能な羊専用のCTスキャナーを製造。羊肉の研究を行う英ノッティンガム大学に機器が貸し出されました。
羊のCTスキャン1回にかかる費用は85 英ポンド(約1万1,900円)といいますから、決して安くはありません。時間としては1回当たり約3分で終了します。獣医師はまず鎮痛剤で羊を落ち着かせ、その後羊をコンベヤーの上にストラップで固定します。羊がより快適な状態で検査を受けられるよう、頭部にはクッションを設置するなど細かな気遣いもあります。
これまで羊農家は、繁殖用として群れの中から最も筋肉が発達し脂肪分の少ない羊を選び出す際、専門家の目に頼らざるを得ませんでした。ところがCTスキャンを利用し羊体内の詳細な内部構造を画像化することで、繁殖に最も適した羊をより正確に選び出すことができるようになりました。これにより、今まで以上に健康的な羊の繁殖・販売が可能となり、英国では年間8億2,200 万英ポンドの市場を持つ羊肉産業の活性化が期待されています。
一方で、羊のCTスキャン・プログラムをリードしてきた同大学生物学部のシンクレア教授は、「われわれが行っているのは、特別新しいことではない」と言います。同教授は、「繁殖に適した個体の選別は、動物が家畜化された1万年前から行われており、CTスキャンの導入はそのプロセスを迅速化するもの」とし、より精密かつ正確な結果を得るための手助けをするものだと話しています。
各国で進む研究同様の研究はオーストラリアでも進められています。2012年5月17日付のABCニュースによると、西オーストラリア州に位置するマードック大学では、羊がどれだけの筋肉、脂肪、骨を持ち合わせているかを把握するため、約2,000頭の羊の死骸(しがい)がCTスキャンによる検査を受けました。こちらは生きた羊ではありませんが、英国と同様、より脂肪分が少なく筋肉の多い羊肉の生産を目指す研究として進められています。
CTスキャンのコンベヤー上に羊がおとなしく横たわる姿は、ややコミカルにも思えますが、羊肉の品質向上に向けた重要な一歩といえそうです。
投稿者プロフィール
最新の投稿
純子の根掘り葉掘り2017.07.07第70回 まだまだ掘り足りません!魅力あふれる人と場所(最終回)
純子の根掘り葉掘り2017.06.30第69回 シドニーと山陰地方を結びたい!sasakiのシェフ、優さん
純子の根掘り葉掘り2017.06.09第68回 日本の食材を世界へ!SDマーケティング・グローバルの由理さん
純子の根掘り葉掘り2017.04.28第67回 世界中どこでも参上します!谷村うどん