第9回 クローン羊はなぜ衝撃的だった?

世界初のクローン羊「ドリー」を誕生させた科学者チームの一員だった英国の生物学者キース・キャンベルさんが、今月5日に58 年の生涯に幕を閉じました。

キャンベルさんはクローン技術の研究を1991 年に開始。96 年には同僚とともに、大人の個体の細胞から動物のクローンを作製する実験を初めて行い、翌年2月にクローン羊の誕生が報道された際は、全世界に衝撃を与えました。

クローンとは、通常の受精という過程なしで生まれた、全く同じ遺伝情報を持つ個体同士のことをいいます。自然界にはよくあることで、例えば一卵性双生児はクローンです。また、挿し木で増やした樹木や、種イモから育てたイモもみなクローンです。では、なぜドリーの誕生は衝撃的だったのでしょうか。

人間などの動物の場合、精子と卵子が合体した受精卵が分割し、次の世代が生まれてきます。受精卵は、ある時期まで分裂したそれぞれの細胞が、別々に1つの個体に成長する能力を持ちます。ところが、一定の時期を過ぎると、脳になる細胞は脳にしかならず、心臓になる細胞は心臓にしかなることができません。そのため、人間の皮膚の細胞を取ってきて育てても、人間にはならないのです。

ところがドリーは、ヒツジの乳腺細胞から作られた羊でした。これにより、乳腺細胞は乳腺細胞にしかなれないという常識が覆されました。また、ヒトでも同様のことが可能なのではとの考えが、世界中に衝撃を与えたのです。

ドリーの誕生後、各国でヒトのクローン研究を行っても良いのかとの議論が沸き起こりました。日本では01年6月にヒトクローン規制法が施行され、人間のクローン作りが禁止されています。

ドリーの誕生は、生命工学・生殖工学という研究分野の発展の過程で生み出されたもので、研究者たちが興味本位で行ったものではありませんでした。しかし、クローン人間が現実のものとなってきたことから、世界的な論議を呼んだのも当然といえるかもしれません。

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