第29回 豪州の希望の星はタスマニア?脚光浴びるウイスキー

英ロンドンで開催された昨年のワールド・ウイスキー・アワード(WWA)で、タスマニア州のサリバンズ・コーブ(Sullivans Cove)が「世界一」となる最優秀シングルモルトに選ばれた。同州産ウイスキーが海外のウイスキー愛好家やウイスキーに詳しくない人の関心も集めている。外国特派員協会主催の、同州ハリヤーズ・ロード・ディスティラリー(Hellyers Road Distillery)によるウイスキー・テイスティングがシドニーで開かれ、参加してみた。

これまで国内で比較的目立たない存在だったタスマニア州。ハリヤーズの社長兼マスターディスティラーであるマーク・リトラー(Mark Littler)さんは、「若い頃は週末にタスマニア州に行くというと鼻で笑われたが、今では週末にタスマニア州でグルメを楽しむのが人気になっている」と環境の変化を語る。ハリヤーズが最も重視する市場は最大市場の国内だが、海外市場を視野に、空港での免税店販売を始めた。日本でも今年、酒類販売会社やまやの店舗でウイスキーを販売する計画だ。

ハリヤーズはオーストラリア最大のシングルモルトウイスキー生産者だが、小規模蒸留所で在庫を確保する必要があるため、販売量に制限がある。新市場をどんどん開拓していくことはしないという。

量はたくさん売れないが、品質の高いハリヤーズのウイスキーを国際的なブランドにしたいというマークさん。増産という課題を考えなければ、世界中の食卓で特別なときにハリヤーズのウイスキーを楽しんでもらうのが「究極の夢」だ。

■「ストーリー」の大切さ

マークさんが大切にしているのはウイスキーの味だけでなく、その背景にある「ストーリー」だ。どんな歴史があり、どのように作られているのかを消費者と共有することでウイスキーの味わいを深め、また消費者とのつながりも強くなる。ハリヤーズは、市場に流通しているオーストラリア産ウイスキーで最も古い12年物の販売を昨年9月に開始したが、大きな広告を打つことなく、同蒸留所の一番人気となった。小売価格は1本100~110豪ドル(1豪ドル=約92円)だが、評判が評判を呼んでいる。

実はハリヤーズ、タスマニア州の乳業会社ベタミルク(Betta Milk)の完全子会社だ。非上場企業のベタミルクは来年で創業60年。牛乳処理量は年間1,000万リットルだが、オーストラリアの業界全体(同14億~15億リットル)と比べると小さい。同規模の他社が大手に統合されていく中、食品業界の結束が強いタスマニア州企業として、社内で「タスマニア州のストーリーを伝える食品を作ろう」という動きが1991年から始まった。オーストラリアの酪農規制緩和は1990年代だ。

マークさんが入社した2003年は社員が自身1人だけ。醸造所は1997年に設立されたが、当時はワインやビールなどの製造も模索していたという。02年にウイスキーの最初の試作品ができ、06年に発売を開始した。併設する飲食店や案内所を含めた従業員数は今や最大で20人に増えた。港湾都市バーニー(Burnie)にある同案内所がまた人気で、年間訪問者数は3万人と、同都市の人口を超える。

■酪農の経験おいしさに

乳業会社を親会社に持つことで、タスマニア州産穀物に対する深い知識や、徹底した衛生品質管理など、酪農の経験がウイスキー作りに大きく生きているとマークさんは語る。世界各地のウイスキーなどが集まるフランスでのウイスキー・ライブ・パリでは13年に、銘柄を隠して行うブラインドテイスティングで「新世界ワイン最高賞」に選ばれた。

マークさんは同社ウイスキーのおいしさの秘密として、同州産穀物ときれいな水、安定した気温など環境の良さや、優れた技術を挙げる。マークさんが教えてくれたテイスティングの方法はまず香りを楽しみ、口に少量を含んで舌でころがし、舌の違う場所で味わいや質感をとらえる。最後に息を軽く吸い込んで、風味の変化を楽しむ、というもの。アルコール度数が高いのでワインほど多くの種類を楽しめないが、その分ゆっくり味わえそうだ。

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