行きずりの人
中華系の食料品店でお目当てのザーサイの瓶詰を見つけ、「あったあった」と一人で喜んでいると、「すみません。ここって、買わないでレジ出て大丈夫ですか」と女性の声。日本語だ。振り返ると、眼鏡を掛けた学生風。
「大丈夫ですよ」と答えると、「そうですか。ありがとうございます」と立ち去ろうとするので、つれない女人に追いすがる光源氏のような気持ちになり、「あの、日本人の方ですか」と間抜けな質問をしてしまった。
「はい。こちらに1カ月ほどいるので、どんな食品があるのか下見しようと思って」。それで会話は終わった。行きずりの人であった。
品ぞろえが多い店なので、一つぐらいは買うものがあるのではと思ったが、余計なお世話である。慎重な人なのだろう。あるいは初の海外で緊張し、お金を持たずに店に入ってしまったのかもしれない。
ふと、初めて豪州で買った缶入りスパゲティがあまりにまずくて呆然とした日のことを思い出した。(短吉)
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