第8回 「血統の整理に着手」
ベルツリー・オーストラリア代表・鈴木崇雄
ここメガロンバレーにて「WAGYU」の繁殖を始めて、まず血統について整理をしなければいけないと思 いました。今までの経験から、どのような血統の牛が、どのような生産に向いているのかが少しずつ判るようになって来ました。豪州全体の「WAGYU」生産 が滞ってきた現在、これからはどのような種雄牛が使われていくのか、どういった血統の牛が好まれていくのかを見極めるのは将来の「WAGYU」事業にとっ て非常に大切なことです。
今までの豪州の「WAGYU」事業は、交雑種の生産が中心となっていました。交雑種の場合、雌牛は主にアンガス種、ホルス タイン種など大型の牛が基本となります。今まで、さまざまな「WAGYU」の種雄牛が交雑種の生産に使われてきましたが、特に成績が安定していたのは「但 馬系」の種雄牛でした。豪州に入って来た但馬系の牛は安美土井系、菊照土井系のものが中心でした。
大変安定した成績を残し、豪州の「WAGYU」生 産者ならだれもが知っている「MICHIFUKU号」は安美土井系の名牛「紋次郎」と「谷茂」の産子とされています。現在、豪州和牛登録協会に登録されて いる「MICHIFUKU号」の直系種雄牛は350頭を超えていることからも、その信頼度がわかります。アンガス種、ホルスタイン種の両方との相性も良 く、サシが非常に良く入る反面、増体が少ないことから、二世代交配(F2)以上になると牛が小柄になるということがありました。
菊照土井系の種雄牛 としては「KITATERUYASUDOI号」が非常に安定した成績を残しています。父方に菊照土井と安美土井の産しである名牛「照長土井」、母方の二代 祖が安美土井系の「安谷土井」、三代祖に「菊照土井」という系譜です。こちらは、直系種雄牛として590頭近く登録されています。やはり、交雑種での肥育 成績が非常に安定しておりました。しかし、こちらも同様に牛が小柄になるという欠点がありました。
当然ながら、これまでの「WAGYU」生産はこの 但馬系を中心としながら進められてきたわけですが、近親交配の危険性、増体の確保などの観点から藤良系の「第7糸桜」の子孫である、 「ITOMOCHI1/2号」(直系種雄牛94頭),「ITOHANA2号」(直系種雄牛140頭)や気高系の「HIRASHIGETAYASU号」(直 系種雄牛320頭)を使用しての種雄牛の繁殖も行われました。ただし、交雑種での成績という点だけを見て但馬系統の牛の需要が非常に高かったことが、 「WAGYU」業界全体の但馬系統への偏重を生み出していきました。
現在、交雑種の肥育牛の需要が落ち込んできている中で将来は 「Fullblood」と呼ばれる「WAGYU」100%の肥育牛の需要が伸びてくるのではないかと想像します。これは海外市場での商品の差別化を測るた めに、交雑種では得られない最高品質のものが求められてくるのではないかという考えからです。豪州での肥育を経験したわたしが感じたことは、但馬系統の強い「WAGYU」100%の肥育素牛は豪州での肥育システムでは非常に難しいということでした。交雑種であれば、母方の体格、増体といった特徴を備えた但馬系による肥育牛はその目的を達成できました。但馬系の100%「WAGYU」ですと、その増体の悪さから肥育日数の延長、枝肉重量の減少などの問題が出 てくるのです。日本の生産者の方々はその特徴を良く捉え、飼料配合を変えたり肥育日数の調節を1頭1頭管理して成績を出されています。また、日本では手間 をかけてもよいものが出ればそれなりの収入が得られます。
豪州は多頭肥育が基本で、1頭1頭への管理は難しいと考えます。こうした中で、豪州でも成績の出る100%「WAGYU」の肥育素牛を作るに当たって求められる血統は、交雑種生産用のそれとは異なるものであるべきだと考えます。
投稿者プロフィール
- シドニー近郊のブルーマウンテンにある和牛牧場「 ベルツリー・オーストラリア」代表。日本人が営む唯一の和牛牧場として、オーストラリアで注目を集めている。
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