新・豪州Wagyuと歩む 第9回 海外で生産される和牛肉(その2)

■海外市場での日本産和牛肉

日本国内の和牛生産はここ数年ほぼ横ばいだと聞きます。それに対して、日本国内の牛肉消費は人口の高齢化に伴い今後減少していくと思われます。それに加え、飼料のほとんどを輸入に頼る日本での和牛生産は、生産コストが非常に高くなります。近年は、疫病の発生や震災などによって繁殖頭数が少なくなった影響で、子牛の導入価格も高値で推移していると聞いています。そういった背景から、日本の生産者の方々も海外への販売に盛んに取り組んでいるというニュースを頻繁に聞くようになりました。

日本産和牛の一番の特徴はその品質です。これは世界中どこを探しても見る事のできない、素晴らしいものだと言えます。オーストラリアから輸出されている和牛肉と比べても、日本産和牛の品質はずばぬけているでしょう。しかしながら、日本産の高品質和牛を受け入れる準備が輸出先の国の市場でできているかと問われると、少し疑問に思います。牛肉消費形態や物価の違う国々で、万人に受け入れられるような和牛肉と言うのは難しいのかもしれません。

■WAGYUに期待するのは?

オーストラリアを含めた海外で生産される「WAGYU」商品の中には交雑種を含む場合が少なくありません。生産者によってはきっちりと長期肥育の穀物仕上げで、日本の和牛を凌駕(りょうが)するような高品質の商品を作るところもあるますが、近年のオーガニックブームの影響か、牧草だけで和牛を育てて赤身の多い商品を作っているところもあります。所変われば品変わる─。今やWAGYUの名前の付いた商品はさまざまな形態で市場に広がっています。しかし、消費者が「WAGYU」と名のついた商品を見たり聞いたりして、そこに期待するものは何でしょうか。

しっかりとサシの入ったジューシーなお肉、口に入れた途端に溶けてしまうような食感、そんなイメージを思い浮かべる消費者が少なくないと思います。それこそが、和牛の真骨頂とも言えるのではないでしょうか。

ある人に「どういう飼い方をしたら和牛になるのですか」と聞かれたことがあります。これは、肉の品質の良いものが和牛である、という前提で出てきた質問だと思います。「和牛肉」がそのまま「A5等級(日本の牛肉の最高格付け)」ということはないと思いますが、日本で販売されている和牛商品の質については、消費者の期待を裏切るものは少ないと思います。

海外では、そこまでしっかりした和牛へのイメージができていないのか、玉石混合でさまざまな品質のWAGYUが市場に出回っています。和牛の良さを海外で広めていこうとする自分としては、海外生まれの「WAGYU」が、「和牛」肉に対する期待を裏切らないでくれるといいな、と思います。自分にとってはどこの国であれ、和牛とは食べる人を幸せにするような商品であってほしいと願っています。

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投稿者プロフィール

鈴木 崇雄
シドニー近郊のブルーマウンテンにある和牛牧場「 ベルツリー・オーストラリア」代表。日本人が営む唯一の和牛牧場として、オーストラリアで注目を集めている。