第56回 着物姿でコーヒー作り、カフェ・ジャポネのます美さん
ランドウィックの閑静な住宅街。その交差点の角に、安田ます美さんが経営するカフェ「Café Japoné(カフェ・ジャポネ)」がある。自慢のコーヒーはもちろん、グルテンフリーの日本食メニューも出すユニークなカフェだ。10月にオープン10周年を迎える同カフェのオーナー、安田ます美さんに話を聞いた。
独自のコーヒー文化が発達したオーストラリア。シドニーやメルボルンでは、文化はさらに洗練され、こだわりの強い小規模カフェが多い。世界的に人気の米コーヒーチェーンも敬遠されて根付かないほどで、競争も激しい。
京都出身のます美さんが日本語の教師としてシドニーに来たのは日本語ブームだった1991年。教職を務めた15年の間、一息入れたいと思っても、クラシック音楽がかかるようなリラックスできるカフェがないことが、ずっと不満だったそうだ。そこで長期勤務者に与えられる1年間の長期休みをきっかけに、自分でおいしいコーヒーとクロワッサンを出すカフェを作ろうと思い立ったという。
■人気メニューは「雑炊」
当時はイタリアンカフェブーム。しかしイタリアンでは勝負できないと、日本とフランスを前面に出すことを決めた。店名のジャポネのつづりは、「Japonais」とフランス語ではなく、相談して「Japoné」に。最初のフードメニューはケーキとトーストだったが、当時主流だった、週末の朝はカフェでベーコンエッグを食べるオージーの食習慣も、メニューに取り入れた。

2000年のシドニー五輪からは食文化の多様化が進み、手軽に食べられるすしロールの人気が高まるなど、日本食への見方が大きく変わった。「海苔なんて昔はくさいとかいって見向きもされなかったのに、今では海苔だけ欲しいという人もいる時代。すしロールさまさまね」とます美さんは笑う。その後は、健康的でグルテンフリーで調理しやすい、キッチンで作れる日本食メニューを増やすようになったそうだ。当時、一番評判の良かったメニューはなんと「雑炊」。カツオだしの効いた味が、今でも人気メニューだそう。おにぎりも置いている。
■「知らぬが仏」と「笑顔」
教職からカフェ経営と思い切ったキャリアチェンジをしたます美さん。コーヒー作りを一生懸命練習し、コーヒーの味には自信があったそうだが、最初は来客数も少なく、客の1人から「店を閉めた方がいい」と言われたこともある。しかします美さんはなぜか自信があったそうで、「その自信が相手を安心させるみたい。とにかくにこにこして接客したら、友達が友達を連れてきてくれた」そうだ。とはいえ、経営マネジメントはます美さん1人でこなすため苦労も多く、「本当に知らぬが仏でした」と振り返る。
ます美さんの母親はお茶の先生。ます美さんもシドニーにたくさん着物を持っているが、着る機会がなく、このままではいずれ着られなくなってしまうとの思いから、去年から仕事場でも着物を着るようにした。
今後はカフェで日本文化を紹介するイベントを企画したい考え。日本に行くオージーも増えて、日本の食材、文化でももっと深い知識を知りたがる人が増えた。「日本文化を紹介するのに良いタイミング」と考えている。カフェにも、日本では身近なおにぎりが、シドニーでは食べられないことを嘆くオージー客がいるそう。「まずは着物のファッションショーかな」と計画が動き出している。
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