第37回 ロボットで農家を幸せに!酪農家のウォーレン夫妻

農業のオートメーション化が叫ばれている。とりわけ飼育のほか1日に2度行う搾乳など、酪農家の肉体的な労働負担は大きく、労働力不足や農家の高齢化が進む中、作業の省力化を実現できる搾乳ロボットは酪農業の「未来」でもある。14年前に国内で初めて自動搾乳システムを導入した酪農場ロボティックデアリー(Robotic Dairy)のウォーレン夫妻(Max and Evelyn Warren)を訪ねた。

酪農場があるのは、ビクトリア州ローズデール近郊。酪農が盛んなギップスランド地方にあり、放牧にも使われる緑色の丘陵が美しい地域だ。搾乳ロボットには複数の種類があり、夫妻が導入したのは、オランダの酪農機器製造会社レリー(LELY)製の箱型のロボット。機械に入ってきた牛の搾乳を1頭ずつ自動で行う。レリーは当時、放牧主体であるオーストラリアへの進出に唯一意欲的な企業だったという。稼働に必要なソフトウエアは、同社と夫妻が協力してオーストラリア向けに調整。編み出された「スリー・ウェー・グレージング」システムは、搾乳後の牛を別の放牧地に誘導するなど、牛に3カ所の放牧地を循環させるもので、現在は海外でも採用されている。

牛の健康状態や飼育状況、搾乳量や質などは一元管理され、牛の首輪で識別される。現在は約300頭の牛をロボット4機で搾乳する。牛は乳を搾られに自らロボットに向かい、搾乳機の取り付けや消毒は機械が自動で行う。朝起床してパソコンを開けば、前夜の搾乳状況が一目で分かり、外出先でも、スマホのアプリでシステムを管理できる。牛は自由に移動できるため、乳量の多い時期には1日4~5度の搾乳ができ、牛の健康維持にも役立っている。

ウォーレン夫妻が100万豪ドル(1豪ドル=約91円)の大金を投じてロボットを導入したのは14年前、夫のマックスさんが50歳の時だ。長時間労働が普通の酪農業。無理を重ねたマックスさんが45歳のときに心臓発作を起こしたことがきっかけで、負担の少ない新たな搾乳方法を取り入れることになった。

■予想外の批判

ロボットを導入したからといって仕事の量が劇的に減ることはないが、牛の管理などがしやすくなり、日常の生活を楽しむ余裕ができたことが一番の収穫だと妻のエブリンさんは言う。銀行からの融資を断られるなど導入には困難も多かったが、家族との時間すらままならない、働き詰めの酪農家の生活を改善したいという思いが、夫妻を突き動かした。酪農の魅力を高め、若者の酪農離れを食い止めたい気持ちもあった。

2001年にはオーストラリアの公共放送ABCからテレビ取材を受けた。自分たちが開発したシステムを多くの農家が歓迎するだろうと喜んだが、放送後に夫妻が直面したのは予想外の批判。「おそらくロボット搾乳という概念が理解されておらず、懐疑的な見方が多かった」とエブリンさんは振り返る。搾乳を請け負う業者などから強い批判を受けたという。

搾乳ロボットについては、シドニー大学などが長年、オーストラリアの環境に合わせた数十頭の牛を同時に搾乳できる全自動のロータリーパーラー(AMR)方式の研究を続けている。エブリンさんによると、この方式は企業などによる大規模農場向けで、費用効率の良さはまだ実証されていない。

■若い世代に期待

夫妻は牛1頭1頭に向き合い、農家の生活改善を最優先に開発した自分たちのシステムこそ、労働力不足が年々深刻化する中で、家族経営のオーストラリアの酪農家を支える未来だと信じている。

ウォーレン夫妻は、観光と教育を兼ねた農場ツアーを開催するほか、若手の酪農家と共同で農場を経営し、知識の伝達を図っている。今はロボットの価格も若干下がり、新技術の活用に前向きな若い農家が増えていることが心強いという。自分たちの搾乳システムを学びたいと考えている人がいれば、世界中どこでも、誰に対しても、手助けしたいと考えている。

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