第35回 農業と鉱業共存できる?NSW州ハンター地区リポ(上)
農業と鉱業が長らく共存してきたニューサウスウェールズ(NSW)州のハンター地区。両産業の発展により、土地利用をめぐる意見の対立が強まっている。200年近くの歴史を持つ農業拠点でありながら、石炭鉱拡張による集団移転に直面しているバルガ(Bulga)を訪れた。
バルガの集落が始まったのは1820年。酪農や肉牛、ワインの生産や穀物・野菜の栽培など、農業が盛んだ。住宅150軒に、住民400人が暮らし、シドニー中心部から車で片道2時間半~3時間ほど北に向かったところにある。欧州系移民の歴史に加え、先住民アボリジニの聖地もあり、「ヘリテージ(歴史的遺産)」が多く残る地域だ。
今回シドニーからのバルガ訪問ツアーを企画したのは、石炭や天然ガス開発から農家や自然を守ろうとする女性たちによる団体ランド・ウオーター・フューチャー。住民によるバルガ周辺の案内に加え、アボリジニの地域有力者(local elder)を含む住民とのお茶、最後は、バルガで生産された農産物をワイナリーで味わうという内容。
ツアーが企画された理由は、資源大手リオ・ティントが石炭露天採掘鉱の拡張計画をNSW州政府に提出したことにある。リオは同じ内容の申請を過去2度行っており、2回とも裁判で住民が勝訴し却下されているが、このほど環境への影響よりも地元への経済貢献を重視する方向に州の規制が改正されたことを受けて、3度目の提出を行った。石炭鉱拡張計画が許可されれば、採掘地域はバルガの集落から2.6キロメートルの位置まで迫る。そのため、すでに受けている粉じんや騒音被害が深刻化し、住民は事実上立ち退きを余儀なくされ、集落全体が移転することになるという。
■農地残す地下採掘を
アボリジニであるケビン・タガートさんは、緑の牧草で埋まる丘陵を指差し「あそこには(地下で採掘する)坑内採掘鉱があるが、地表は放牧地として使われている」として、農業が盛んな地域での石炭採掘は、農地を残せる坑内採掘鉱で行うべきだと主張する。アボリジニとして土地の形を大きく変える資源開発には反感があるが、ハンター地区は長く鉱業と農業が共存しており、鉱業がもたらす経済的な恩恵もケビンさんは理解している。リオが行っている露天採掘では、採掘地は農地として再び利用できなくなる。周辺では現在、合わせて28カ所の石炭開発が計画されているそうだ。
露天採掘でできた巨大な穴は、資源会社には埋める義務がなく、採掘が終わればそのまま残される。地下から掘り起こされた有害物資などが雨で川に流され、川の汚染も進んでいるという。
バルガの住民は、リオによる石炭鉱拡張による反対運動の中で、バルガの集落存続だけを主張するのではなく、資源会社側の環境や農地保全の取り組みを義務化するなど、鉱業と農業が共存できる仕組みを作りたい考えだ。その1つとして、採掘後の穴埋め義務化などを主張する。
■南部ではCSGが問題に
ケビンさんによると、採掘による汚染で、港湾都市ニューカッスルに流れるハンター川は、今後20~30年で完全に「死んで」しまうという。地元農家から聞かれた声で多いのは、貴重な水源を失い、農地を次の世代に残せなくなるという不安だ。ハンター北部は、米ケンタッキー州に次いで競走馬の飼育で世界2位。ハンター地区の雇用のうち鉱業が占めるのはわずか5%だ。
水の汚染は炭層ガス(CSG)採掘が問題になっているハンターバレーなど南部のワイン生産地でも大きな懸念事項だ。ハンター地区で最大の有機ワイナリー、アセラ・エステート・ワインズも、ブドウ畑のすぐ近くまで採掘区が迫っていると危機感を強める。オリーブ油などを生産するリバー・フラッツ・エステートも、従業員総出で採掘反対活動に参加しているという。アセラのワインやリバー・フラッツのオリーブに舌鼓を打ちながら、何ともいえない気持ちになった。
投稿者プロフィール
最新の投稿
企画・特集2019年7月19日パースで暮らす 最終回
企画・特集2019年6月21日第44回 オーストラリアで料理、計量について知っておきたいこと
企画・特集2019年5月17日第43回 海外にいても、ゴマは家庭料理の必需品─いりごまの作り方
企画・特集2019年4月18日第42回 ココナッツオイルで甘辛焼きうどん


