第33回 コミュニティー農業の実現を、生き残り目指す郊外農業

シドニーでは住宅価格が高騰し、住宅開発の波が中心街から郊外へと広がっている。肥沃な土地に恵まれ園芸農業の盛んな北西部ホークスべリー(Hawkesbury)市も例外ではなく、農地の宅地化が進んでいる。地域に根ざした「コミュニティー農業」を掲げ、都市近郊の中小農家の生き残りに取り組む団体、ホークスべリー・ハーベストのイアン・ノード(Ian Knowd)氏による講義を聞いた。

ホークスべリー市は、シドニー中心部から西に車で1時間~1時間半。シドニー都市圏最大の河川であるホークスベリー・ネピアン(Nepean)川という、巨大な水源を持ち、土地も肥沃なことから、大都市を支える「シドニーの食糧庫(Sydney's food bowl)」だ。欧州系の移民が住み始めた200年以上前から農業が盛んで、現在の主産業も農業だ。

同市の人口は2011年の国勢調査では6万2,400人だが、19年には8万3,000人に達する見込み。シドニー中心部への通勤圏であることや、家庭菜園など趣味で農業がしやすいことなどから、世代を問わず住宅需要は高まる一方という。

ノード氏は、シドニーの郊外農業は大きく分けて、住宅需要の強まる都市化と、スーパーマーケット大手の影響力が強い市場構造という2つの脅威にさらされていると主張する。開発が進むこと自体は悪いことではないものの、特にホークスべリー市で問題なのは、オーストラリアでは貴重な肥沃な農地までも宅地化されてしまうことだ。同市の農地の価値は「本来は宅地以上のはず」(ノード氏)だが、もうからない農業に、農地の価値は上がらない。

■農家襲う2つの脅威

同市の農家が現在直面する問題は、高齢化と利益性が低いことによる後継者不足だ。農地は今や宅地として高値で売却できるため、高齢の農家が老後の資金を得るため農地を開発業者に手放す例が多いという。

ノード氏によると、農家の実入りが悪いのは、スーパー大手が市場を大きく支配する市場構造に原因がある。大手以外の売り先を見つけづらいため、言い値で農作物をスーパーに納入する状態が続き、採算が取れなくなってしまうという。

ホークスべリー・ハーベストは、各当事者がそれぞれの健康や幸せを実現しながら、結果としてコミュニティー全体を巻き込んでともに豊かになっていく営み「コミュニティー・ヘルス」の考え方を土台に、各農家がそれぞれの強みを生かして地域農業を盛り上げる試みに取り組んでいる。

具体的には、農産物を直販するファーマーズマーケットや、農家を一般に開放するオープンデー、そして地域の農家を訪問する際のガイドブック「ファームゲート・トレール」を作成し、農業観光にも力を入れる。中小農家が生き残るには住民や消費者との距離を縮め、信頼関係を構築し、小規模でも強い需要(ニッチマーケット)を作ることが鍵と考えるからだ。ネット販売など、スーパー以外での販売経路も開拓する。

今後重要視するのは、リンゴ農家がアップルパイを販売するなど、生産者が加工で付加価値を付けて販売する垂直統合戦略だ。グルメ観光と地産地消促進で、地元レストランと協力する。

■生産地が「ブランド」

講義の質疑応答で、「アップルパイを売るりんご農家が増えれば、競争が激化して共倒れになるのでは」と質問をぶつけた。ノード氏は、生産者などに強いこだわりを持つニッチマーケットが、規模は小さいものの急速に拡大していることに触れ、「生産者や生産地を特別なブランドとすることで、生産者の共倒れは起きない」と即答。「安い輸入食品が大量に入ってきても生き残れる、特別なブランド作りを目指している」と述べ、ひとり一人の個性が違うよう、生産者も独自色を出せると自信たっぷりに答えていた。

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