第30回 豪州での日本酒営業に手ごたえ!吉久保酒造の智士さん

海外での日本酒人気の高まりを受け、日本酒の蔵元による海外プロモーションも活気が出てきた。規模が小さく質にこだわる蔵元は酒造りに人を充てたいのが本音で、その大半が輸入業者に販路開拓を頼る状態。そんな中、シドニーに根を下ろし、茨城県水戸市の吉久保酒造が作る日本酒「一品(いっぴん)」を売り込む人がいる。吉久保智士(よしくぼ・さとし)さんに話を聞いた。

吉久保酒造は225年の歴史があり、現在の社長は12代目。智士さんは4人兄弟の末っ子で、長男が現在の社長を務めている。末っ子の智士さんは以前から、ほかの兄弟とは違う「何かをしなければ」という思いがあった。英語を勉強する必要性を感じていたことやサーフィンが好きなことなどから4年前にオーストラリアにやってきた。親せきがメルボルンに住むが、英語を学びたいとパースを希望。しかし滞在先などがうまく見つからず、シドニーに腰を落ち着けた。実家からはオーストラリアで売り出すときは営業をするよう言われていたが、なかなか実現せず、サーフボードショップなどで働いていたそうだ。

フルタイムで吉久保酒造の営業を始めたのは1年前。背景には現社長が始めた海外戦略がある。米国を皮切りに販路を広げていたところ、智士さんが滞在中のオーストラリアへの進出が本格的に決まった。現社長はアジアにも注力しており、一品はシンガポールの「マンハッタンバー」に、唯一の日本酒として置かれている。

全部初めてで「楽しい」

日本酒の営業をするのは初めてだった智士さん。飛び込み営業からスタートし、日本食レストランで扱ってもらうことを目標に据えて、一品の試飲会などを開催している。日本で顧客と接した経験はあるが、日本での主要市場は地元で、225年間の歴史が作ってきた顧客を「維持し、サポートすること」が主。日本酒を知らない人への売り込みも初めてだ。手ごたえを聞くと、100人が試飲した場合、3~4割が「日本酒を飲んだことがない人」で、1割が「すごい日本酒好き」、そして残りは「何年か前に飲んだことがあるけど……」という内訳。冷蔵コンテナを使った輸送で品質に自信を持てることや、海外で柔軟の飲み方が提案できることから、需要開拓の余地があり、営業が「非常に楽しい」と智士さんは笑顔を見せる。

一品を扱う飲食店は現在40~50カ所に増え、地元向けのプロモーションも弾みがついてきた。先日シドニーで行われたトップシェフの集まりでは、料理研究家の出倉秀男氏に誘われ、一品を紹介した。また、地元の日本酒好きの人が集まる会合にも定期的に顔を出す。「日本と関係の強い人、日本が好きな人が多い」ことや、豊富な日本酒の知識に驚いたそうだ。

「おかげさま」の気持ち

営業1年目を手探りで駆け抜け、智士さんが今思うのは「おかげさま」という気持ち。日本の蔵元も支えてもらっているからこそ続いており、自身もシドニーで多くの支えを受けていると感じるという。商品を置いてもらえるようになった「今年が勝負」だと語り、飲食店にとって一品をより使いやすい商品にしたいという。オーストラリアでは日本酒はウオツカのような強い酒のイメージが根強いが、若い人にも「楽しく長く飲む」ことを広めたい考え。現在の試飲会に加えて、会費を集めて料理と日本酒のマッチングなどを行いたいという。一品はうま味成分であるアミノ酸度が高いのが特徴の一つで、うま味が味の中心となる日本食と一緒に飲むと、料理の味が深まるという。また、日本酒全体のメリットとして魚料理との相性が良く、ワインのように、間違った選択をすると生臭さが目立ってしまうことがないのも強みだ。

日本語が読めない人には複雑な瓶のラベルも、一品はシンプルに大きく漢字を使う。海外を意識したデザインではないが、「うちの酒は棒1本、丸3つのラベル」と説明し、覚えてもらう。トレードマークの丸刈りも、一品のイメージに悪影響を与えることなく、印象に残してもらうための工夫だ。「一品を通して日本酒全体を知ってほしい」という智士さん。ニュージーランドからも注文が入り、好調な2年目が始まった。

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