思い出の味
誰しも思い出の味があるはずだ。帰国した際、高校時代によく行ったスパゲティ屋に数十年ぶりに足を運んでみた。しかも家族とは別行動で独り赴くという念の入れようだ。
2人用テーブルに案内され、休日であるのをいいことに昼間からビールを注文すると(もう大人なので)、メニューを凝視。食べたいものはいろいろあるが、あいにく体は一つ。熟慮の末、ミートスパゲティを選んだ。グラスを傾けながら来し方を回想していると、鉄板の上でバチバチと音を立てながら運ばれてきた。口の中をやけどしそうになりながら、ほおばる。「うーん、うまい!」かな……。懐かしい味だが、記憶の中の味覚とは比べものにならない。経験はないが、初恋の人と数十年ぶりに出会って幻滅するようなものだろうか。
帰り道、もう一つの思い出の味であるラーメン屋を探したが、こちらは見つからなかった。つぶれてしまったのだろう。残念なような、ほっとしたような気持ちだった。(城一)
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