こだわり業界人探訪 【第3回】たこ焼きも「エンターテイナー精神」で
伝統音楽の演奏者から、オーストラリア初のたこ焼きキッチンカービジネスに転身した日本人がいる。キャンベラに住む土井幸宏さんだ。「技術を披露して喜んでもらうという点は同じ」と話す土井さんは、エンターテイナーであり続けることを追求する。少ない資本で本格的に事業を始めることが可能なキッチンカービジネスについて聞いた。【岩田直子】
たこ焼き事業は2019年、キャンベラ市内のマーケットで屋台を出店するところから始まった。留学時代に日系レストランでキッチンハンドとして働いていた経験から、必要な資格は容易に取得できた。始めてみると、1日に1皿10豪ドル(1豪ドル=約82円)のたこ焼きが150皿以上売れた。波に乗り始めたと感じ、大阪から本格的な大型のたこ焼き製造機を輸入、生産規模の拡大を図った。
■キッチンカービジネス始動
さらに、たこ焼き屋台を出店するだけではなく、本格的にキッチンカーを構えることを決心。ニューサウスウェールズ(NSW)州のキッチンカー製造会社を訪問した。カスタマイズで注文したキッチンカーは、新型コロナウイルスの影響で遅れたものの、21年9月に完成した。
その後、キャンベラ市内のショッピングセンターと契約し、駐車場でオーストラリア初のたこ焼きキッチンカー「オクトボール・キャンベラ」をオープンした。駐車場で常時営業しているため飲食店としてとらえられ、フードデリバリーサービス業者と契約している。キッチンカーの利点を生かし、4月以降は新たに別の場所に移動して営業を始める予定だ。
キッチンカービジネスは、マーケットと異なり天気に影響されない。土井さんは、「少ない資本で始めることができる割には本格的なたこ焼き営業が可能な点も利点」と話す。
■「エンターテイナー」であり続ける
キャンベラは国際色豊かで、NSW州からの流通は良く、新鮮な食材が手に入る。たこ焼きは日本のソウルフードであるものの、オーストラリア市場での展開を考慮し、ベジタリアン用なども販売している。
食文化の違いから、かつおぶしは「ゆらゆら揺れるのが気持ち悪い」との意見を踏まえ、代わりに砕いたポテトチップスをトッピングとして使用。客は地元のオーストラリア人だけでなく、中国、フィリピンなどアジア系も多い。
元々は雅楽の演奏者であったことから、観衆の前で自らの技術を披露し、喜んでもらうことに意義を感じていた土井さん。扱うものが楽器から食品に変わった現在も、「エンターテイナーであり続け、お客さんに感動を与えたい」と語る。
■広がるたこ焼きビジネス
今後さらに事業を拡大する上で、オーストラリアで展開する日系食品企業からの卸売りを受けることができればと土井さんは考えている。現在、たこ焼きビジネスはキッチンカーとマーケットでの出店のみとなっているが、将来的には店舗を構えることも検討中だ。
また、キャンベラの障害者支援サービスと連携し、障害者の方に事業を手伝ってもらう計画を立てていたりなど、多方面にビジネスが拡大している。
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