第5回 ザ・メイキング・オブ・種牛

先月の本コラムで、種雄牛(しゅゆうぎゅう:種牛)作りには膨大な時間と手間と費用がかかることに触れました。筆者の知人は種牛候補の子牛を遺伝性疾患の保因のせいであきらめ、肥育用として先月のセリで手放しました。交配から1年8カ月。これは種牛づくりのほんのスタート段階で夢が破れたことを意味します。国や県の家畜改良事業団の作業を例に取れば、種牛がデビューするまでに6~7年かかります。今月はもう少し詳しくザ・メイキング・オブ・種牛についてお話してみましょう。

■種牛の「再造成」に取り組む宮崎県

2010年の口蹄疫禍で宮崎県は県有種牛55頭のうち50頭を殺処分しました。県独自の特色を持つ和牛ブランド「宮崎牛」の生産を支えるためには、県有の種牛を早期に「再造成」しなければなりません。2011年初頭に県が計上した予算は7年間分で15億円。2017年度までに、5頭に減った県有の種牛を約40頭まで増やそうとしています。

まず、新しい種牛の血統を計画し、県域で選定された優良雌牛に優良種牛の種を付けます。10カ月の妊娠期間を経て生まれた子牛は、その個体自体の増体能力などの調査を受け、選抜された子牛が候補種牛になります(「直接検定」)。その後、「現場後代検定」が始まります。(後代とは候補種牛の子牛のこと。)候補牛の精子を複数の協力農家の雌牛に種付けし、生まれた子牛(去勢・雌牛)15頭以上を複数の肥育農場や施設で一般的な肥育(約30カ月)をしたのち食肉処理を行います。枝肉の格付けをもとに候補種牛の遺伝能力を推定し、優良であれば種牛デビューがかないます。デビューするまでに最短で実に5年8カ月です。

しかしやっとデビューしても、まだ海のものとも山のものともつかぬ新人です。たくさんの生産農家に種付けしてもらえても、子牛が多数セリに出場しても、まだ道半ば。優秀な枝肉が大量に出始めてようやく種牛の名声が広まりますが、デビューからそれまでに3年以上かかります。検定結果が優秀でも子牛の枝肉成績が安定しない種牛は、人気が出ずに消えてゆく運命です。

■良い血統とはー肉用牛として

日齢282日、体重300キロ。種牛候補だった知人の子牛は52.9万円でセリ落とされました。当日の去勢子牛平均値は53.5万円でしたから、高くもなく安くもなく平均の値が付いたことになります。種牛として考え抜かれた血統でも、肥育用として人目を引くとは限りません。良い肉になる子牛をどんどん作る見込みのあった種牛候補でも、その個体自体を太らせた場合に良い肉になるかというと、必ずしもそうではありません。

種牛の遺伝子には、特定の優秀な特質の遺伝力が固定されていなければなりません。例えば肉質の良さ、発育の良さ・肉量の多さ、飼いやすさなど。ある特質の強い遺伝力を持つ父と、ある特質の強い遺伝力を持つ母。父母(および三代祖までさかのぼって)の血統をもとに、肥育に適した子牛の血統はどれかと考えながら購買者は目当ての子牛をせり合います。

筆者の知人は和牛繁殖歴50年の小規模農家です。今回は去勢3頭と雌1頭を出品しました。去勢はみな平均値でしたが雌牛には70万円の値がつきました。日齢281日、体重237キロ。当日の雌の平均値は45.6万円。雌牛がこの高値であれば、肥育用ではなく繁殖用の母牛として買われたという意味です。

繁殖用母牛は遺伝力を期待されます。実はこの雌牛は、種牛候補だった子牛と同じ父母の組み合わせの受精卵移植で同時期に生まれました。(遺伝病の因子を持っているかどうかはキョウダイでも個体によって違います。)種牛づくりは頓挫しましたが、「牛飼いのロマン」をかけて考え抜いた強い遺伝力の血統にふさわしい評価が与えられたということでしょう。

文中とは別の民間農家が保有している種牛候補の子牛(月齢13 カ月)。遺伝力の評価が定まるのは何年も先だが、発育が良く体積が大きい「気高系」の特徴がよく現れている。

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