第63回(最終回) 都市農業との歩み
最終回の今回は、筆者がライフワークとしてきた都市農業の普及について書いてみたい。オーストラリアの都市農業の広まりは、世界よりも遅れているという声をよく聞いていた。気候や人口分布が特異なオーストラリアは、北半球の国の研究例を当てはめる訳にもいかない。数年前に都市農業の中でも特に屋上菜園について調べようと思ったが、文献がほぼ皆無だった。
その後、都市における食糧生産をさまざまな切り口から見てきた。地方自治体ではシドニー市など、すでに政策として組み込んでいるところもあるが、全労働政権時に作成された「全国食糧計画」ではこうした取り組みはほとんど触れられていなかった。
全国レベルの食糧生産で見れば、都市農業の存在は微々たるものだろうが、人口比率から行けばもう少し市民権を得てもいい気もする。これまでの取材を通して感じたことは、その地で生産された食糧を「食べる」ことだけでなく、実際に食糧を「作る」ことにも積極的な姿勢がみられることだ。

■国産品を食べられなくなる?
オーストラリアの消費者は今後、ますます国産の農産物を食べることができなくなる可能性がある。輸出した方が高く売れるためだ。自給率が高くとも、その農産物が国内に十分に出回るとは限らない。それが市場経済である。
先ごろ、若者が中心となった食糧啓発活動のイベントに参加した。その際に、「自由貿易協定(FTA)は政治的な意図がある」と批判していたことが記憶に残っている。政府や産業は輸出拡大のオンパレードだが、実際の市民は自国の食糧システムの変化を望んでいるようだ。都市農業では他者への依存を軽減できるというところに魅力を感じる人がいるのだろう。
ちなみに、都市農業で作れるのは主に野菜だ。オーストラリアはすでに野菜の純輸入国。そのギャップを埋める一翼を担えるかもしれない。先進国では趣味の一環で都市農業が行われる傾向にあるが、オーストラリアは人口の約5%が貧困層。難民も多く受け入れていることから、こうした人々が自家消費用に食糧を作る色合いが強いことも実感した。
(本コラムはひとまず今回で終了します。)
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