第49回 虫を食べる

読者の中に昆虫を食べた経験を持つ人はいるだろうか。国連食糧農業機関(FAO)がこのほど発表したリポートによると、世界には最低でも20億人の人々が伝統的な食料として1,900種の昆虫を食べている。昆虫は現在、家庭レベルでの採取や飼育に限られているが、今後は食料や飼料としての利用の拡大が期待できると見込まれている。

西洋文化には昆虫を食べる習慣がない。農耕が行われ、大型動物が家畜化されたことで、動物から肉や乳製品、皮が得られるほか、運搬用としても利用できたことで、昆虫が脚光を浴びることはなかったようだ。また途上国でも都市化や西洋化が進んだことで、昆虫の消費が減少している。

オーストラリアの先住民アボリジニは長年昆虫を食べてきた。アボリジニが食用にしていた昆虫は、ほかの大陸の人々が主に食べていたシロアリやケムシ、バッタなどとは異なるようだ。欧州人が移住して来る前まで、アボリジニは狩猟採集をしながら遊牧していた。採集した昆虫は地域によっても違うが、食していたのは幼虫や蜂蜜アリ、蛾、蜂など。アボリジニの文化で独自の昆虫食の風習ができた背景には、ユーカリの葉をケムシが食べられなかったことや、予期不能な気候で昆虫の発生の変動が激しかったことがあるとされる。

■文化的な障壁

昆虫の商業生産化には課題もある。一部の昆虫はその生態系が明らかになっていないため、短期的に個体数を増やすことが難しい。季節変動もあり、これらが西洋文化で昆虫を食べる習慣が根付かなかった一因とみられる。また、一部は食用には向かない上、アレルギー反応を引き起こすものもある。

たとえ商業化が成功しても、文化的な障壁も待ち構えている。昆虫を食用として受け入れられない背景には、◇不衛生で病気を拡散する◇飢餓の時にのみ摂取するもの◇原始時代の狩猟採集社会の食糧源であるなどの考え方が広まっていることがある。

昆虫を主流の食材市場に流通させる場合には、すり潰して粉末状のものにするなどの工夫が必要と思われる。オーストラリアではすでに、観光の体験として原産食材を利用した料理で昆虫を食べるツアーに関心が高まっているようだ。アボリジニの伝統的食材を通常のオーストラリア料理に使用したら、一体どんなエキゾティックな味がするのだろうか。

そうはいっても、おいしい食材が溢れている飽食の現代に、昆虫を食べることを社会に根付かせるには多大な時間がかかりそうだ。

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