共同通信アグリラボ 育成権者保護に舵切る種苗法改正 農業者保護とのバランス重要(その1)
日本国内で開発されたブランド果実などの種や苗木を海外へ不正に持ち出すことを禁じる「種苗法改正案」が今月2日、参院本会議で可決、成立し、2021年4月に施行される見通しとなった。
矢野経済研究所フードサイエンスユニットの清水豊理事研究員が、問題の背景や法改正の経緯、改正案のポイントや今後の課題についてまとめた。今週と来週の2回に分けて掲載する。
■種苗法改正までの経緯
食の根幹をなす「品種」という財産については、植物の新品種の保護に関する国際条約(UPOV条約)や種苗法を通じて、育成権者の保護と利用者である生産農家の利益保護のバランスを図りつつ、新品種を育成者権という知的財産権として保護することにより、新品種の開発が促進され、これを通じて安定した食料生産という大きな公益を実現してきた。
ただ近年では、日本の優良品種が海外に無断で流出し、他国で増産された農産物が第三国に輸出されて、日本国からの輸出農産物と競合するなど、日本の農林水産業の発展に支障が生じる事態が生じている。
そうした中にあって、国外への登録品種の持ち出しを禁じていないUPOV条約や、育成者権の効力の例外として農業者の自家増殖を無制限で認めている種苗法の問題点を指摘する声は大きかった。
このような育成権者の権利保護の必要性の高まりもあり、農林水産省が検討を進め、国内で開発されたブランド果実などの海外への不正な持ち出しを禁じる種苗法改正が2020年3月に閣議決定されて国会に提出された。
しかしその後、新型コロナウイルス感染拡大に伴う20年度補正予算案審議など、緊急かつ重大な議案が相次いだ。また同改正案では、一部の登録品種に限って農家が収穫物から種を取って次の作付けに利用する行為(自家増殖)に許諾料の支払いを迫られることで農家の負担が高まるとの声が、SNSなどインターネット上で広がった。
こうした状況を背景に、十分な審議時間が確保できない中、指摘されたような懸念を十分に払拭しきれないとの判断から同国会での成立を断念。そして直近の臨時国会で11月11日に審議が始まり、衆院は19日の本会議で自民党などの賛成多数で可決して参院に送付された。
■無断持ち出しで優良品種流出
種苗法の改正は、出願期限が切れたシャインマスカットが中国や韓国で生産され、第三国に輸出されて日本産と競合する事例や、栽培を山形県内に限定していたサクランボ品種「紅秀峰」が海外に持ち出されて、海外で産地化されて日本に輸入されそうになる事例など、現状の法規制の中で、日本の農林水産業の発展に支障が生じる事態が発生してきたことが背景にある。
一般社団法人や研究機関などで構成する「植物品種等海外流出防止対策コンソーシアム」では20年7月に中国及び韓国の種苗関連インターネットサイトにおける種苗の販売状況について調査し、同年9月その結果を公表している。
その結果、中国、韓国のインターネットサイトで、日本で開発された品種と同名またはその品種の別名と思われる品種名称を用いた種苗が多数販売されている事例が明らかとなった。
育成者権者の了解なしに掲載されていた品種は、イチゴ10品種、カンショ1品種、ウンシュウミカン1品種、その他カンキツ10品種、リンゴ3品種、ブドウ4品種、モモ2品種、スモモ1品種、ナシ1品種、カキ1品種、サクランボ2品種の計36品種に達している。
なおこの調査は、インターネットサイト上での販売時の名称を調査しているため、当該掲載商品が日本の登録品種そのものか、日本の登録品種と同様の名称が付された他の品種の種苗を販売しているかは特定していない。
日本の優良品種や育成者権をいかに守るかが改正種苗法の主眼であり、その点について、多くの農業関係者にとって異論は少ない。
ただ今回の種苗法改正案では、こうした優良品種の海外への流出防止策の一つとして、今まで種苗法上、育成者権の効力の例外として認められてきた農業者の自家増殖について、育成権者の許諾を必要とするとした点が問題視され、許諾料の支払いを迫られる栽培農家の負担が高まるとの反対論が広がり、改正案成立反対を目指す請願などが多数出される動きにつながった。(その2に続く)(共同通信アグリラボ「めぐみ」掲載)
(矢野経済研究所フードサイエンスユニット理事研究員 清水豊)
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- 矢野経済研究所フードサイエンスユニット理事研究員