第26回 シドニーに日本の「おもてなし」を!旅館女将のリンダさん

シドニーのバルメインに、日本旅館「豪壽庵(Gojyuan)」がある。こぢんまりとした庭園や畳の客室、ひのき風呂があり、食事も和食。普通の旅館と違うのは、日本料理や和菓子、伝統工芸品などのワークショップを開催し、日本文化の発信地でもあることだ。オープン2年目の同旅館を切り盛りする、女将(おかみ)のリンダ・エバンス(Linda Evans)さんに話を聞いた。

豪壽庵の外観は街並みに溶け込む、砂岩の建物。しかし一歩中に入ると外の喧騒(けんそう)が遠のき、日本にいるような錯覚を覚える。資材や調度品はくぎなども日本のものを用い、「本物」にこだわった。手間も費用も掛かるが「海外だからこそ、なおさら妥協できなかった」(リンダさん)という。

家族そろって日本びいきのリンダさんだが、旅館を経営することになったのは、約11年前に親せきからバルメインの住宅を相続したことがきっかけ。日本滞在中に衝撃を受けた「日本のおもてなし」をシドニーで再現したいと思ったという。とはいえ、37年間コンピュータープログラマーとして働いてきたリンダさんにとって旅館経営は未知の世界。手探りで調査を重ねる日が続いたが、「裏方仕事」であるプログラマーとして身に着けた考え方や問題の処理の仕方が、旅館経営を学ぶ上で思いがけず役立ったそうだ。

■客に育ててもらう

こだわったのは本物の会席料理を夕食で提供すること。適当なセットメニューを「Kaiseki」と称して提供する店もあるが、会席料理を学んだ経験のあるリンダさんにとってそれは「論外」。運よくシドニーで実力のある料理人を見つけることができ「ホッとした」という。和食の朝食はリンダさんが調理している。

宿泊客には日本や世界各国を旅したことのある「通」の人が多い。会席料理のメニューは毎回変わるが、特に人気があるのは日本料理の要である吸い物と、みそに漬け込んだタラ。リンダさんは客との交流で一流レストランや日本の料亭の話などを聞き、日々知識を深めている。料理の出し方などでアドバイスを受けることもあり、「お客さんに教えてもらっていて、ありがたい。常に『カイゼン』していきたい」そうだ。

最近の傾向としては、オーガニックやフリーレンジ、遺伝子組み換え(GM)食品に対する意識の高い人も増えており、「勉強しなければならないことがたくさんある」と語る。また、意外なところでは、客室で食事をする「部屋出し」が思ったより好評とか。外出する必要がなく部屋で食事をし、風呂に入り、戻ると布団が敷かれているという上げ膳据え膳の旅館スタイルが、宿泊客にとって「面倒を見てもらっているという安心感で落ち着く」という。

■ワークショップやイベント

豪壽庵では日中、さまざまなワークショップを開いている。今後はフード関連のワークショップを増やしたいそうだ。これまでに精進料理、和菓子、日本発祥の食事法「マクロビオティック」などの講座を開催した。別の取り組みとしては、茶室にもなる和室を利用し、国籍や流派を問わず、茶道を学ぶ人が一緒にお茶を練習できる、オープンな集まりを作りたいという。

リンダさんは東日本大震災の復興支援にも熱心で、3月11~15日には豪壽庵のスペースを提供し、東北産日本酒の利き酒や東北産工芸品の展示販売などを行う。

日本文化にほれ込み、「本物を提供すればうまくいく」と信じて未知の世界に飛び込んだリンダさん。年をとるごとにその素晴らしさに気付かされるという「Japanese hospitality」を、今後も追及していく。

 

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