新・豪州Wagyuと歩む 第5回 Wagyu、中国大陸へ(その1)

■和牛生物科技有限公司

中国での和牛交雑の肥育は、かなり前から行われていたようです。中国にはさまざまな形でWagyuの遺伝子がオーストラリアから輸出されており、それらの掛け合わせを含めた和牛飼養頭数は、かなりの数になるのではないでしょうか。

中国にある和牛生産牧場の多くが肥育を中心にした農場であるのに対し、北京に本社を置く「和牛生物科技有限公司」の取り組みはかなり特殊です。それは、オーストラリアから輸入した受精卵を基に、現地で純血和牛を生産しているということに加えて、その牛すべての血統をオーストラリア和牛協会のデータベースに登録し、中国政府から唯一、中国政府認定和牛繁殖農場の指定を受けている事にあります。現在では、和牛生物科技の和牛飼養頭数は北京郊外の牧場と別のそのほか2農場に、繁殖牛と肥育牛あわせて1,200頭あまりにも及びます。

■中国向け和牛生産事情

和牛生物科技代表のIan Chen氏との出会いは今から4年前です。私の牧場の代表種雄牛「舞福」が中国の輸出検疫を通して精液採取を行っていたので、Ian氏から中国向けの受精卵採卵用に精液を販売してほしいと言われたのがきっかけでした。中国向け精液、受精卵輸出の家畜検疫条件はほかの国に比べると厳しく、条件が合わないと種雄牛やドナー牛の検疫をかけて、採液、採卵をする事ができません。また、中国側の受け入れ態勢がしっかりした組織でないと、輸出許可証の中国政府からの発行や、金銭取引の段階で立ち消えになる事も多いので、オーストラリアにも中国向けに受精卵、精液を作っている生産者はあまり多くありません。その様な状況の中で、Ian氏はメルボルン在住の実業家であること、中国で牛の受精卵移植技師をしている同級生を中心に立ち上げた事業の運営にもしっかりとした将来的なプランがあり、本物の和牛を中国本土で販売したいと言う強い思いに共感して、中国本土での和牛生産のお手伝いをする事になりました。

■中国山東省和牛繁殖牧場

初めて中国の山東省にある和牛繁殖施設を訪れたのは2011年でした。オーストラリアから輸入した和牛鵜受精卵を現地の農家の母牛に移植して産まれた子牛が200頭ほど飼育されていた農場施設は、奇麗に整備されており、子牛の状態も良い印象を受けました。受精卵移植を現地で行っているスタッフは、オーストラリアの受精卵技師の指導を受けて、非常に質の高い技術を持った優秀な人材が集まっています。凍結受精卵の移植の受胎確率は、オーストラリアの平均は50%です。海外に受精卵を輸出する時に一番心配なのがこの移植技術なのですが、この農場スタッフは50%~70%という非常に安定した成績を残していました。これは、スタッフの質の高さもさることながら、現地の農家との連携をしっかりと行い生産していることの現れだと思います。現在では、山東省の牧場には600頭以上の和牛繁殖牛、子牛、育成が飼養されています。この牧場での和牛子牛の育成は、繁殖候補雌牛、肥育前段階の去勢牛とグループごとに月齢管理されており、子牛の発育状態も大変優れています。
 

 

公式SNSをフォロー

投稿者プロフィール

鈴木 崇雄
シドニー近郊のブルーマウンテンにある和牛牧場「 ベルツリー・オーストラリア」代表。日本人が営む唯一の和牛牧場として、オーストラリアで注目を集めている。