共同通信アグリラボ 豪原産の「森のキャビア」産地化目指す 愛媛・八幡浜、フィンガーライムに挑戦
オーストラリア原産で、フランス料理などに使われる高級食材のフィンガーライムの産地化を目指し、愛媛県八幡浜市のミカン農家の挑戦が始まっている。政府が目指す「農家所得の向上」に結び付くのか、消費の裾野を広げるために市場での認知度を高めるのが最初の関門だ。
フィンガーライムを知っている人は、相当の食通だろう。スーパーなどの店頭に並ぶことはめったになく、主にサラダのトッピングや肉料理・魚料理の付け合わせとして、超高級レストランのセレブシェフらが注目している食材だ。
山椒のような爽やかな香りがするだけでなく、パチンとはじける粒の食感や、緑、ピンク、赤、黄色などさまざまな色が料理を引き立てる。
果実は長さ4~8センチの円筒形で、文字通り指のような形。外観は濃い茶色だが、中身は魚卵のような鮮やかな色をした粒々だ。
レモンや普通のライムと異なり、果汁が少なめで弾力性があり「森のキャビア」「フルーツキャビア」「キャビアライム」などとも呼ばれている。
友人を通じてフィンガーライムの存在を知った株式会社かじ坊(愛媛県八幡浜市)の梶谷光弘代表(61)は、その種類の多さに驚いた。野生種も含めると200種類近くあり、同じ品種でも果樹の熟成時期によって粒の色がグリーンから黄色に変化する。
主に原産地のオーストラリアや米国西海岸で生産され、1キログラム当たり2万円ぐらいで輸入されており、日本でも家庭菜園など小規模の生産はあるが、栽培に手間がかかるため、まとまった量を出荷できる産地はほとんどない。
愛媛県は温州ミカンの大産地だが、1990年代のオレンジの貿易自由化以降、経営環境は厳しい。40年以上ミカンを栽培してきた梶谷さんは「甘平」「せとか」「愛媛果試28号」、グレープフルーツに似た「河内晩柑」、さらに仏手柑(ぶっしゅかん)という観賞用柑橘など、20種類以上を育て多品種化を進めてきた。
高価で取引されるフィンガーライムの生産で、さらに栽培品目を増やし所得の向上や安定に結び付けば、後継者がいないために荒れ果ててしまう園地を少しでも減らすことができると考え、2014年から独学で栽培方法を研究した。
試行錯誤の末、化学肥料や農薬を一切使わない独自の栽培方法を確立し、17年から出荷できるようになった。梶谷さんのフィンガーライムは「輸入品と比べて圧倒的に鮮度が優れ、果肉の香り、粒の弾力性、色の透明性がまったく異なる」と、高級ホテルのシェフの間で評判となり、輸入品よりも高い1キログラム当たり3万円以上で取引されている。
■戦略は希少性と品質の向上
しかし、供給量に限界があるため、梶谷さんは近隣の農家に声を掛け、自ら会長になって「フィンガーライム産地化推進協議会」を設立、試行錯誤して蓄積した栽培ノウハウを共有化して産地化を目指すことにした。
20年度の県の補助事業「次世代につなぐ果樹産地づくり推進事業」を活用し、ハウスを11棟(1棟は2アール)整備した。温度などの栽培情報をデジタル化してクラウドで管理し、スマホで栽培を支援する情報技術を導入、開花時期をずらすように栽培方法を工夫し、通年出荷できる態勢を整えた。建設に必要な資金は、日本金融公庫や地元の伊予銀行から融資を受けた。
「八幡浜はミカンと魚の町、この組み合わせを大事にしたい」と梶谷さん。スダチのように魚料理や焼き鳥の添え物として気軽に使えるように、小さいサイズや傷がある場合は1キログラム当たり1万円程度の価格で普及を図るとともに、瓶詰めに加工するなどして用途を広げる。
同時に「もっと色を出したい。24色ぐらいそろえれば、クレパスや絵の具のパレットのように料理の表現の幅が広がる」と梶谷さん。高級層を狙って希少性と品質を高める戦略だ。
フィンガーライムの産地化の動きは、宮崎県や三重県でも始まっている。苗木から2年ぐらいで収穫できるようになるという。各地の出荷が本格化すれば、スーパーなどの店頭でも見掛ける身近な食材になるかもしれない。
(共同通信アグリラボ所長 石井勇人)
共同通信アグリラボは、食べ物や農林水産業、地域の再生を考えるために、株式会社共同通信社が設置した研究・情報発信組織です。WEBサイト「めぐみ」を開設し、ウェルスと連携しています。
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