500号記念集中連載 オーストラリア酪農業、改革のゆくえ 「第3回 黄信号灯る」

<前回のあらすじ>オーストラリアの小売業界は2011年、生産コストを度外視した低価格で牛乳の販売を始め、酪農業界は一気に弱体化し、政治も介入した。

酪農業界の持続可能性に危機感を抱いた連邦政府は、小売業界への働きかけを強めた。同時に州政府、業界団体と共同で、酪農家向けに税制優遇制度や灌漑インフラ整備などに資金を拠出、業界を支援した。だが状況は好転するどころか酪農家の疲弊は深刻化し、2016年にオーストラリア自由競争・消費者委員会(ACCC)は酪農業界全体の透明性の調査に入ると発表した。バーナビ-・ジョイス農相(当時)も安価な牛乳に監視の目を光らせる方針を示した。

■酪農家4割減

翌17年に始まった大干ばつで、水の価格は通常時の7倍、飼料(大麦)も1トン当たり250豪ドルから395豪ドルへ5割増しとなったことで酪農家の生産条件の悪化は決定的となった。業界団体デアリー・オーストラリア(DA)によると「生産コストは固形分1キロ当たり1豪ドル増加した」状況という。

オーストラリア最大の酪農生産州のVIC州では、2009年に5462戸だった酪農家は、2019年に3520戸に減少(約36%減)、乳牛頭数も19年度は約144万頭、前期比で7%減となった。乳牛が減ったことで生乳生産量も減少、19/20年度は1995年以降で最低の記録を更新した。

また、DAが実施した調査では、半数の酪農家が先行きに不安を感じていることが分かった。

欧州の調査会社GIRAは当時、オーストラリアの生乳生産量はそれまでの10年間で横ばいから減少、一方で国内消費量は一定して伸びていることから、状況が変わらなければ、オーストラリアは23年には乳製品の純輸入国になると警告した。この時点でオーストラリアの酪農業界の持続可能性に黄信号が点った。

■適正金額の半額

オーストラリアでは、「食品は大手スーパーを通さなければ売れない」と言われるほど、大手2社の寡占が進んでいる。その強い価格支配力は、干ばつによる生産コストの上昇を価格に転嫁することを許さないどころか、インフレによる物価上昇の反映もされなかった。

生産者団体クイーンズランド酪農者組織によると、92年当時、切手代は0.45豪ドルで、ガソリンは0.62豪ドル、牛乳は1豪ドルだった。18年になると切手は1豪ドル、ガソリンは1.59豪ドルに上昇したが、牛乳の価格は1豪ドルのまま、四半世紀以上据え置きだった。

連邦準備銀行はインフレを考慮した牛乳の価格は、1.89豪ドルが適性と試算した。(続く)

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