湖城の窓から 「戸惑う農家」

ニューサウスウェールズ州の酪農家を取材しました。シドニーから片道4時間かけて北上すると、露天掘りの鉱山を背景に、広い草原で乳牛がのどかに草を食んでいます。

その酪農家が経営する農場の広さは、東京ドーム96個分に相当する450ヘクタール(ha)。そこで乳牛350頭を飼養しています。北海道の酪農家1軒の平均面積が約60haで飼養頭数が約70頭とされていることから、いかに広大なスケールなのか分かります。

農場がそれほど広いのは、十分な牧草を育てるため。高品質な牛乳を生産するには、質の良い牧草が必要だとその酪農家は言います。そのためインフレ進行による牧草用の肥料コストがどこまで上昇するかが懸念点だそう。ただそれ以上に、今シーズンの雨の多い気候は非常に好ましいと笑顔で話します。

一方、牛の排出するメタンガスについて話が及ぶと、途端に顔をしかめます。牛を悪者にする世論には納得できず、広大な牧草地が吸収する二酸化炭素と牛のげっぷの排出量を比較する精密な調査が必要だと強調します。さらには遠くに見える鉱山を指差し、「問題なのは酪農よりも石炭だ」ときっぱり。

海藻ベースの飼料添加剤など、牛の排出メタン削減に向けた技術開発も進んではいますが、実際に農業界は最近まで排出削減目標の枠外とされ、のんきに構えていた面もあるのでしょう。昨今の急激な環境保護意識の高まりに、戸惑う農家の姿を見ました。

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