第64回 新規参入を容易にするアグリテック ~露地栽培の「病害虫」対策~

今回は、露地野菜栽培における病害虫対策に焦点を当て、具体的なアグリテックを紹介しながら、その可能性について掘り下げます。
露地栽培は病害虫の発生が問題となります。天候の変化により病害虫は容易に発生し、野菜の外観に影響を与え売り物にならなくするため、農家にとって最も深刻な問題の一つです。このため病害虫の対策は農業経営において極めて重要です。
■病害虫の発生メカニズムとリスク
病害虫が発生する条件をまとめると以下になります。
露地栽培では、湿度や温度が高い季節には病害虫のリスクが高まります。オーストラリアでは春から初夏に高温多湿の環境が続き病害虫の活動が活発になります。このため予防策としての技術導入が急務となります。ただし平均して湿度が低いオーストラリアは、日本より病害虫発生頻度は低い傾向です。
アグリテックでの事前対策と事後対応
アグリテックの導入は、病害虫対策において大きな役割を果たします。特にAIやIoT技術を活用した事前予防と、実際に被害が発生した際の迅速な対応は、農家にとってリスクとコストの大幅な削減を実現します。
■アグリテックのメリット
アグリテックの導入の主な利点を挙げます。
1.農薬使用量の削減
病害虫を未然に防ぎ、農薬の使用量が大幅に削減されます。環境への負荷も軽減し、消費者への安全性も向上します。
2.コスト削減
農薬や労働力のコストを削減できるため、栽培にかかる総コストを抑えることが可能です。
3.持続可能な農業の実現
農薬の減少は土壌や水質の保全にも寄与し、持続可能な農業を実現する上で重要です。
■新規就農をサポート
従来の露地栽培はベテラン農家が経験をもとに、気候条件や作物の状態を観察し、病害虫の発生を予測して対策をとることが主流でした。しかし、これは特に新規参入者にとっては難易度が高いものでした。
一方、アグリテックの導入により、データを活用した予測と迅速な対応が可能となり、農業への参入障壁が大幅に低くなりました。特にセンサーやAI技術により、農家はリアルタイムで気象や作物の状態を把握でき、最適なタイミングで病害虫対策を行うことができるようになっています。

筆者:今林丈二 豪州在住の農業ビジネスコンサルタント。農業ビジネスに従事後、2011年に渡豪。三菱ケミカルとビクトリア州政府が共同運営する植物工場プロジェクトや、現地企業が運営する日本いちご栽培プロジェクトに参画。Bisnis Asiaのコンサルタント(農業分野)としても活躍中。現在はオーストラリアの植物工場スタートアップのマネジャーとして、農業ビジネスの最前線にいる。メールアドレス:imabayashi@innoplex.org

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