特別寄稿 第1回 コンテナがない! 豪州とグローバルサプライチェーンの行方

1956年4月26日、ニュージャージー州ニューアーク港。クレーンが奇妙な荷物を老朽タンカー、アイデアルX号に積み込んだ。58個のアルミ製の「箱」である。5日後、アイデアルX号がヒューストンに入港すると、そこには58台のトレーラートラックが待ち構えていた。「箱」を載せて目的地へ向かう。これが、革命の始まりだった。(マルク・レビンソン著「コンテナ物語 世界を変えたのは『箱』の発明だった」より)

■「魔法の箱」が消えた

海上コンテナの普及により、世界は一変しました。コンテナがなかった時代、貨物の港湾荷役には数日~数週間を要し、荷役中の破損・亡失も多く、一般に、品質、コスト、納期、柔軟性のいずれをとっても国内生産に劣るものでした。しかし、このコンテナという「魔法の箱」の登場によるグローバル化が日本の高度経済成長を支え、中国を世界の工場にするなど、コンテナが世界のすべてを変えました。この記事を読んでいる多くの日系企業の皆様が南半球で暮らしているのも、この「魔法の箱」の影響と言えるでしょう。

しかし、「コンテナ物語」(改訂版)出版後、わずか半年のうちに始まったコロナ禍により、グローバル・サプライチェーン(供給網)はコンテナ誕生以降最大の危機を迎えています。コンテナ及びコンテナ船の船腹不足をはじめとした諸要因により価格は高騰し、例えば上海発メルボルン向けの平均海上スポット運賃は、パンデミック前の2019年中頃に1,090米ドルだったところ、今年9月には実に8.6倍の9,350米ドルになりました。これは、世界主要港向け全体平均の上昇率より高い数値です。それでも無事に貨物を動かせれば良いほうで、出港日が近い単発の予約では、言い値でも船腹を確保できない場合があります。

また、たとえ貨物をコンテナ船に載せることができても、通常より数十日も遅く到着することも少なくありません。さらに追い打ちをかけるように、オーストラリアでは、オーストラリア海運労組(MUA)が各州の港でストライキを繰り返しており、運賃上昇、遅延に拍車をかけています。

■航空便レートはコロナ前の2倍

航空運賃も高止まりをしています。CLIVEデータ・サービシズによると、2021年9月の世界全体の航空貨物運賃は、パンデミック前の19年同月比2倍の水準で推移しています。オーストラリアへの航空貨物の大半は、旅客機の貨物スペースで運ばれてきますが、国境封鎖により旅客需要が少ない中、貨物だけを載せて旅客機を飛ばすことが増え、運賃上昇を招いています。さらに前述の海上貨物の混乱から、本来は海上コンテナで運ぶべき貨物を航空貨物に切り替える、いわゆる「船落ち」も発生し、需要と供給のミスマッチを大きくしています。

航空会社は運航機材の大型化等、対策に尽力していますが、回復には至っていません。

■在庫不足の影響

このような状況により、オーストラリアを含む世界全体で大きな影響が生じています。

小売り大手ウールワースのバンダッチ最高経営責任者(CEO)は、サプライチェーンの問題で商品価格が上昇しているとオーストラリアン紙に語りました。また、オーストラリア鉄鋼協会は、通常はコストの観点から決して航空便を使わない鉄鋼製品でさえも、欠品を防ぐために日本から航空便で緊急調達する事例もあると伝えています。実際にオーストラリア国内の商品の在庫も不足しているため、お子さまのいる家庭では、明日にでもクリスマス・プレゼントを買っておいたほうが良いかもしれません。

オーストラリア在住の皆様はご存知の通り、国際郵便でも影響が出ており、日本郵便は20年4月からオーストラリア向けEMSの引き受けを停止しています(20年11月以降、一部の航空便を再開)。

「サプライチェーンの混乱」と叫ばれて久しいですが、実際には何が起きているのでしょう。「コンテナ不足」と言いますが、ではコンテナはどこにあるのでしょうか。なぜオーストラリア向け運賃は世界平均より高騰しているのでしょう。そしてこの事態に対し、各国政府はどのような動きをしているのでしょうか。

本連載では、コンテナの行方やMUAのストライキ、日系企業の主な輸出元である中国、日本、タイ等の現況に触れながら、サプライチェーンに何が起きているのか、この先どう変化していくのかについて、いくつかのポイントをお伝えします。

 

 

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